有棘細胞癌
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有棘細胞癌(squamous cell carcinoma; SCC)
本症は表皮各科細法への分化を示す皮膚癌の一つで、癌細胞自体は、有棘細胞に類似した形態に分化した姿のまま細胞分裂して増殖します。皮膚の扁平上皮癌と同義語です。
本症は皮膚癌の中では基底細胞癌に次いで多く、日本では毎年約2.5人/10万人が罹患すると推定されています。1.7:1の割合で男性に多く、40歳未満では全体の2%程度にすぎませんが、加齢とともに増加し、通常の癌年齢よりも高い70歳以上がおよそ60%を占めています。
前癌病変と前駆症
有棘細胞癌にはさまざまな前癌病変や前駆症が知られています。有棘細胞癌を生じやすい慢性先行病変としては、熱傷瘢痕、尋常性狼瘡、褥瘡、慢性放射線皮膚炎、慢性膿皮症、円板状エリテマトーデスなどがあります。前癌病変や早期病変としては、ボーエン病 (Bowen病)、光線角化症、白板症、放射線角化症、汗孔角化症、外陰萎縮症、包茎、先天性多型皮膚萎縮症、栄養障害型表皮水疱症、尖圭コンジローム、扁平苔癬などが、有棘細胞癌を生じやすい全身状態としては色素性乾皮症、後天性免疫不全症候群、慢性砒素中毒などがあります。尚、有棘細胞癌の表皮内癌(上皮内癌)をボーエン病 (Bowen病)と言います。自覚症状に乏しく疼痛も伴わないのが特徴です。 上記のような先行病変に加えて、日光(紫外線)、ヒト乳頭腫ウイルス、砒素、タール、放射線などの発癌因子が発症に関与していると考えられています。症状
高齢者の日光露出部(顔面、頭部、四肢末端など)に好発し、通常は単発性です。先行病変の上に、小丘疹~結節が出現し、次第に拡大して隆起性で不整形の腫瘍となります。中心部は壊死となり、難治性潰瘍を形成し、細菌の二次感染をきたして特有の悪臭を放ちます。花キャベツ様増殖を認め、これらの病変に角質や痂皮が付着すしたり出血することもありますが、通常痛みは有りません。基底細胞癌に比べると所属リンパ節に転移する可能性は高いです。診断
確定診断するためには、皮膚生検(組織検査)を行い、病理検索を行って決定します。また、腫瘍の浸潤や転移などの検索のために、CT、MRI、全身シンチグラムなども行います。以上の検査を行い、腫瘍の病期を確定して、各々の病期に応じた治療法を行います。
病理所見
有棘細胞類似の形態の癌細胞が認められ、胞巣(nest)構造を呈し、胞巣中心部は角質の形成[癌真珠(cancer pearl)]を認めます。一方、角質形成の程度は分化度により異なってくるため、角質形成が多い場合を高分化型扁平上皮癌、角質形成がない場合を低分化型扁平上皮癌と言います。治療
治療方法には、外科療法、凍結療法、放射線療法、化学療法があります。血行性転移を起こした場合には、放射線療法や化学療法などを併用した集学的治療になります。外科療法
転移を認めなければ手術によって拡大切除して形成外科的に再建するのが第一選択です。所属リンパ節転移を認める場合は郭清術も施行します。放射線療法
放射線療法は有棘細胞癌に治療効果があります。放射線療法にはいくつかの方法がありますが、X線や電子線を専用の器械を使って身体の外側から照射する方法が一般的です。通常1回の照射は短時間で終わるため、放射線療法は通院しながら受けることも可能です。また、部位によっては、癌細胞が正常細胞に比べて熱に弱いことを利用した温熱療法を併用して、更に治療効果が上げることもあります。化学療法
癌が進行して全身へ転移している場合には、化学療法(ペプロマイシンや、シスプラチンとアドリアマイシンなど)が治療の中心となります。また、有棘細胞癌は頭、顔、頚など人目につく部位にできることが多いので、切除する部分が少なくて済むように、手術前に抗癌剤で癌をできるだけ小さくしておく治療を行う場合もあります。その他の治療
凍結療法は、液体窒素を使って癌組織内の温度が-20~-50℃になるように冷やし、癌細胞を凍結壊死させる方法です。高齢の方や持病のために、上記治療が行えない場合に行う姑息的な治療法です。最近では化学薬品を使ったMoh's surgeryも行われることがあります。集学的治療
ある程度進行した有棘細胞癌は、上記治療を組み合わせて最も効果が上がるような治療を行います。予後
有棘細胞癌は身体の表面に出現するため、内臓癌に比べて早期発見・早期治療が可能な場合が多く、治療成績は良好です。リンパ節転移も遠隔転移も認められなければ5年生存率は85%以上と予後良好で、所属リンパ節転移があっても55%程度ですが、遠隔転移を認める場合は30%以下と予後不良となります。
執筆:2011.1