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ボトックス

作用機序と薬理

ボツリヌス毒素は嫌気性菌Clostridium botulinumによって産生される外毒素で、8種類の血清型に分類されています。これらのうち臨床で最も広く使用されているのがA型ボツリヌス毒素で、米国Allergan社(Botulinum Toxin Type A)で製造しているものがボトックス(Botox)です。ボトックスは分子量150kDaの神経毒部分を精製したもので、L鎖(50kDaとH鎖(100kDa)から成る2本鎖ポリペプチドです。H鎖はコリン作動性神経終末に選択的に結合し、細胞内に取り込まれたL鎖はアセチルコリン放出に必要な蛋白SNAP-25を切断するので、神経・筋あるいは神経・汗腺接合部が遮断されます。即ち、ボトックスを注射することにより、局所の筋弛緩あるいは発汗抑制が起こります。一連の反応が発現しはじめるのは3~4日前後で、7~14日前後で最終的な効果が見られます。約3~4ヶ月で新たな神経発芽による神経・筋接合部が形成されてくるために、その反応も徐々に減弱していきます。従って、一定期間でボトックスの筋弛緩効果は消滅するため、効果を維持するためには定期的にボトックスを注入する必要があります。

ボトックスの安全性

ボトックスは1989年米国FDAで承認され、筋肉の活動亢進に起因する多く疾患(眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頚、斜視、顔面チック、多汗症、片頭痛、嗄声など)に用いられており、その安全性は確立しています。その後美容治療にも応用され、2002年には眉間のしわ治療薬として米国FDAの認可を受けており、米国の美容治療の中では最も使用頻度の高い製品の一つです。日本でも眼瞼痙攣の治療薬として、1996年にAllergan社ボトックス注100(A型ボツリヌス毒素)という商品名で厚生労働省から承認されています(その後、片側顔面痙攣、痙性斜頸も追加承認)が、現在のところ日本ではしわ治療に対する承認はされていません。
ボツリヌス食中毒を引き起こすにはボトックス30000単位以上が必要とされますが、しわ治療に使用される1回量は5~100単位以内なので、この治療によって中毒を起こす可能性はありません。また、アレルギー自体は非常に少なく、アレルギーテストは通常不要です(アナフィラキシー様症状が出現したという報告もありますが、極めて稀です)。
当院では高い安全性と実績を持つ、米国Allergan社と、ボトックスと同等の効果を持つ新聞発のボトリヌス毒素製剤であるニューロノックス(韓国Medy-Tox製)を使用しています。

ボトックスによるしわ治療

適応しわ:眉間の縦しわ、額の横しわ、目尻のしわ(カラスの足跡)

特に眉間と額のしわでは筋肉が過緊張していることが多く、ヒアルロン酸などの注入をしてもその効果はあまり持続しないため、ボトックスがより有効と考えられます。
実際の治療は気になるしわの原因となっている筋肉を同定し、数ヶ所にこのボトックスを微量注入します。注入する場所や個人差の問題はありますが、3~4日前後ぐらいから効果が出始め、7~14日前後で最終的な効果が見られます。効果は4~6ヶ月持続します。1年に2~3回を目安に続けていくことをお勧めします。治療にあたり、製剤の注入に関して豊富な知識と経験を持つ院長が細心の注意のもとに施術を行います。尚、ボトックスを左右対称に同量注射しても注入部位を勝手に揉んだりすると、目的の筋肉以外にまでボトックスが周囲に拡散して近隣の筋肉まで麻痺してしまい、顔面の非対称が生じる可能性があります。従って、ボトックス注入部位は、周囲への拡散防止のため、絶対に揉まないで下さい。

副作用発現率

眉間のしわ治療へのボトックス使用での副作用は、頭痛(13.3%)、呼吸器感染症(3.5%)、一過性眼瞼下垂(3.2%)、嘔気(3.0%)、感冒様症状(2.0%)であり、稀に顔面痛、注射部位の紅斑、筋緊張低下を引き起こすことがあります。(これに対して、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸へのボトックス使用では、副作用発現率は14%前後で、兎眼・閉瞼不全、嚥下障害、筋緊張低下、眼瞼下垂、流涙、頭痛、注射部腫脹、倦怠感、顔面麻痺などがあります。)尚、本剤を長期間繰り返し注射した場合や短期間(3ヶ月以内)に再注入を繰り返す場合には、体の免疫反応によって中和抗体が産生されて、効果が薄れる可能性があります。

禁忌

妊婦、妊娠の可能性のある方、授乳婦。
神経筋接合部の障害を持つ方(重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症など)。
以前にボツリヌス菌が原因と思われる食中毒の既往のある方。
本剤の成分に対して過敏症のある方。

慎重投与

下記の投薬中の方は、医師の診察とカウンセリングが必要ですので、御相談下さい。
筋弛緩剤(塩化ツボクラリン、ダントロレンナトリウムなど)、塩酸スペクチノマイシン、アミノグリコシド系抗生物質(硫酸ゲンタマイシン、硫酸ネオマイシンなど)、ポリペプチド系抗生物質(硫酸ポリミキシンBなど)、テトラサイクリン系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質、抗痙縮剤(バクロフェンなど)、抗コリン剤(臭化ブチルスコポラミン、塩酸トリヘキシフェニジルなど)、ベンゾジアゼピン系薬剤および類薬(ジアゼパム、エチゾラムなど)、ベンザミド系薬剤(塩酸チアプリド、スルピリドなど)、ペニシラミン、カルシウムチャンネルブロッカーなど

*筋弛緩作用が増強されるため、閉瞼不全、頚部筋脱力などの症状が出現することがあります。

また、併用薬の抗コリン作用による嚥下障害が現れる恐れがあります。

ボトックスの応用

腋窩多汗症

多汗症はエクリン汗腺の機能亢進状態であり、精神的刺激や温度刺激などで顔面、手掌、足底などに滴るほどの発汗を生じます。

汗腺はコリン作動性神経支配なので、ボトックスにより神経・汗腺接合部が遮断されて、発汗を抑制できます。表面麻酔後に、腋窩の皮膚へボトックスを1.5cm間隔で皮内注射をします。3~4日前後ぐらいから効果が出始め、7~14日前後で最終的な効果が見られます。効果は3~8ヶ月持続します。

皮内への注射なので、筋力低下の副作用は生じません。尚、腋臭症に関しては無効なので、外科手術(汗腺剪除術)をお勧めします。

手掌・足底多汗症

理論的には上記と同じ要領でボトックスを皮内注射することになりますが、この部位では注射に伴う疼痛が強いために神経ブロックなどの麻酔の前処置が必要なことと、手掌・足底の筋力低下の危険性があります。

従って、現時点では当院では手掌・足底多汗症の治療を行っておりません。多汗症の治療には、ボトックス以外にも胸部交感神経節切除術があります。特に手掌・足底多汗症の治療には有効とされていますが、代償性発汗(背部、前胸部、腹部、腰部、大腿部、下腿部などに異常発汗が起こる)が生じることが多いとされているので、その長所と短所を十分理解した上で治療されると良いでしょう。
この他にも、エラ顔(奥歯に力をいれるとぐっと外へ張り出す筋肉(咬筋))にボトックス注入して小顔にする応用もありますが、当院では咀嚼や咬合などに不都合がある可能性があるので、行っておりません。