電撃傷

電撃傷(electrical injuries, electrical burn)

本症は、感電・落雷・電気スパーク(flash)・アーク(arc)などの電流通過による組織損傷です。従って、皮膚ばかりでなく、皮下組織・筋肉・血管・神経などにも損傷が及びcrush injuryとして捉えることができます。
組織損傷の原因は、電流そのものによる損傷、生体内でのjoule熱によって生じる損傷、アークやスパークの熱による損傷があります。

症状

1)通電経路組織の損傷

接触部位、接地部位では電流密度が高く皮膚の電気抵抗高いため、joule熱大きくなり接触と接地皮膚に電流斑が生じます。一般に、電圧は高いほど危険で、直流よりも交流は危険度が高く、周波数も低いほど危険 (一般家庭電源50-60Hzは最も危険)とされています。
接触部位は圧倒的に上肢に多く、重度の電流斑が生じます。接地部位は下肢・体幹に多いですが、分流するために接触部位に比較すると皮膚損傷はより軽度です。但し、接触部位、接地部位が腹壁の場合、稀に腹腔内臓器損傷の可能性もあり、その場合は死亡率40%前後と高いです。
電流斑の症状は熱傷と同じですが、一見軽症のように見えても重度になりやすく皮膚潰瘍や壊死が生じます。また、通電による損傷は皮膚のみばかりではなく、電気抵抗の低い皮下組織、筋肉、血管、神経などにも及ぶため、組織損傷範囲は外見以上に広範になることが多いです。さらに、筋肉損傷はjoule熱変性ばかりでなく循環障害、浮腫によるcompartment syndromeによる二次的損傷で壊死範囲が拡大することがあります。
骨、腱などの電気抵抗の高い組織では高熱が発生しやすく、損傷が高度となりやすく、手関節、肘関節、肩関節など細くくびれた関節部でも電流密度が高くなって損傷を受けやすいです。従って、本症では体表面の損傷の程度のみで重症度は決めることはできません。
尚、高圧電流では、筋肉の収縮により四肢が屈曲し肘関節、肩関節で短絡してアーク放電が起こり胸壁表面の深達性熱傷起こすことがあります。

2)アークやスパークの熱による損傷

高圧電流の流れている伝導体では直接接触しなくても、接近することでフラッシュオーバー現象によりアーク放電や線間放電が起こり、このスパークの高熱(2500~5000℃)により電紋(シダの葉状のI度~浅達性II度熱傷)を生じたり,衣服などに着火して広範囲熱傷をきたすことがあります。この際受傷者は跳ね飛ばされることが多いため、外傷のチェックが必要です。しかし、通電時間が短いため、生体内に通電することは少ないとされています。

3) 臓器への影響
a) 循環器系

i)心臓
心臓への通電による調律伝導異常が生じて、死因の多くは受傷直後の心室細動によるものですが、稀に8~12時間後に起こった報告もあります。最も発生頻度が高い通電経路は手から下肢です。この他にも、不整脈(心房細動、副調律、非特異的ST~T変化など)が生じて長期間持続することがあります。

ii)末梢血管の損傷
通電に伴うjoule熱による末梢血管損傷で動脈瘤形成、出血、閉塞、狭窄、血栓形成を生じることがあります。また、電流密度の高くなる関節部近傍で高度となりやすいです。

b) 神経系に対する影響

i)直後の反応
中枢、脊髄、末梢神経の急性障害(興奮閾値の上昇、活動電位の低下、伝導速度の低下など可逆的変化など)により、意識消失、呼吸停止、運動・知覚麻痺、痙攣、呼吸停止、知覚異常、疼痛などが一過性に生じます。急性期の意識消失は60%前後と高率にみられます。
また、380V以下の低電圧では神経症状の多くは一過性で重大な後遺症は残さないですが、高圧電流になると長期症状が持続することが多いです。

ii)遅発性神経障害
時間が経過(数日~数年後)してから、運動・知覚麻痺、知覚異常、記銘力障害、痙攣、頭痛、発汗異常、血管運動異常を生じることがあります。その機序はまだ完全には解明されていませんが、1)ジュール熱による栄養血管の出血、炎症、血栓形成、神経線維周囲の線維化など 2)出血による血行障害 3)強烈な筋肉収縮による物理的損傷 4)組織蛋白の変性 5)静電気力による組織損傷、などが考えられています。

iii)外傷後神経症
抑欝、不隠、復職拒否、ヒステリーが見られ、社会復帰が困難になることがあります。

c) その他の臓器障害

筋組織の崩壊により横紋筋融解症およびミオグロビン尿出現や、末梢血管透過性亢進による循環血液量減少で急性腎不全が出現することがあります。
幼児が電源コードくわえ口唇、口角の受傷、口輪筋の壊死を含む深達性損傷の報告があります(100~120Vでも高圧線に匹敵する電流が流れる) 。
顔面、眼窩周囲の高圧電撃傷では、眼球損傷(白内障が最も多く、結膜・角膜・虹彩の損傷が生じたり、血行障害による二次的網膜視神経障害など)を生じることがあります。
筋肉の攣縮による脊椎の骨折や、二次的に生じた転落・外傷などによる多発外傷(頭部・胸腹部外傷,臓器損傷,脊椎・脊髄損傷,骨折,脱臼など)も生じることがあります。
高電圧による電撃傷で接触部位あるいは接地部位が腹壁にある場合は、内臓損傷が生じることがあります。
受傷後1週間前後に、胸膜損傷に由来する急性肺障害(胸水貯留)が生じることがあります。 軟部組織に異所性骨化を生じやすくなることがあります。

治療

死亡例の大多数は受傷直後の心室細動による電撃死です。受傷直後に呼吸筋攣縮による呼吸停止や、呼吸中枢の麻痺もありえますが、一過性のことが多く人工呼吸で救命可能です。
また、同時に合併する多発外傷にも注意する必要があります。
従って、受傷現場から救急救命センターへの搬送時には、受傷機転の詳細な聴取と身体所見を視診(接触部位と接地部位の確認など)と意識障害やバイタルサインを確認しながら、上述の点に注意して蘇生(心電図モニター装着して心マッサージやAEDを開始、人工呼吸、静脈路確保、多発外傷の応急処置、採血など)を開始します。
入院時の全身管理はcrush injuryから発生したショックに準じた治療を行います。心臓や血管などの循環系のチェック、脳・脊髄・末梢神経の急性障害に対する対処、急性腎不全の早期発見、合併損傷の精査と治療などを行います。
局所管理は、表在熱傷部位に関しては通常の熱傷治療に準じて治療を行います。筋肉損傷によるcompartment syndromeが疑われる場合は、早期に減張切開しなければなりません。
また、損傷範囲は皮膚だけでなく、皮下組織・筋・腱・血管・神経・骨にまで及ぶことがある為、時間経過とともに壊死範囲が拡大してデブリードマン(壊死組織除去)を行ったり、四肢切断することもあり得ます。また、末梢血管への損傷による動脈瘤形成、出血、閉塞、狭窄、血栓形成を生じることがあるので、その対処も必要になることがあります。
入院してからの遅延死亡は敗血症、腎不全、突然の大出血などで、遅延死亡率は1~3.5%とされます。
リハビリは身体的後遺症の程度によって異なりますが、社会復帰に向けてできる限り早期から行います。外傷後神経症は治療が難しいことも多いです。

執筆:2011.11

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