進行性顔面片側萎縮症
進行性顔面片側萎縮症(progressive hemifacial atrophy 、Parry-Romberg 症候群)
本症は顔面の三叉神経領域を中心として、顔面片側の皮膚、軟部及び骨組織が進行性に萎縮する原因不明の疾患です。通常は幼少児から若年者の女性に多く発症し、数年以上かけて病状は停止します。 皮膚症状、神経症状、眼症状、口腔症状などを様々な程度で合併することが多く、重症度も個体差が大きいです。
原因
血中抗核抗体高値あるいは限局性強皮症に類似することがあるので、自己免疫疾患との仮説があります。また、常染色体優性遺伝の症例も報告されていますが、異論も多いです。更に、外傷や感染などによる末梢交感神経の異常説、脳神経堤細胞の移動障害説、細胞性の慢性炎症による血管障害説などがありますが、未だ原因は不明です。
臨床症状
顔面片側の側頭~頬筋近傍から発症することが多く、皮膚とその直下の皮下組織、筋肉、軟骨、骨などが徐々に委縮して周囲に拡大します。症状が進行すると、患側の口角や外鼻が偏位しはじめ、さらに患側の上顎、眼、耳介、頚部にまで病変が波及します。
時に、前頭部から症状が初発して、頭部の脱毛、線状の陥凹性皮膚委縮を呈して、徐々に中顔面に症状が拡大してくることがあり、剣創状強皮症 (coup de sabre)との鑑別が難しい場合もあります。
本症の約20%に、患部の皮膚や毛髪に色素過剰あるいは色素脱出を認めます。時に病変が四肢・躯幹の同側、あるいは反対側に出現することがあり、稀に両側顔面に病変が出現することもあります。
神経学的異常を伴うことが多く、本症の約45%が三叉神経痛や片頭痛を併発します。また、本症の10%に患側とは反対側にジャクソン型痙攣を発症することがあり、このような症状を伴う症例の半数にMRIで脳内異常所見を認めます。
眼症状は、患側の眼球周囲の脂肪組織の変性消失による眼球陥凹が生じることが多いです。また、患側の眼瞼下垂、縮瞳、発汗低下(Horner症候群)、外眼筋麻痺、斜視、ぶどう膜炎、虹彩異色症を呈することもあります。
口腔(舌、歯肉、歯、軟口蓋)症状は通常認められることが多く、本症の約50%に歯牙異常(歯牙萌出遅延、歯根露出や吸収、不正咬合)が発症し、35%に顎関節障害や咀嚼筋の痙攣などにより患側の開口障害や困難を認め、25%に患側上口唇や舌に委縮を認めます。
診断
顔面非対称の患者で、過去の症状履歴と上記のような臨床的身体所見を持ち合わせていれば、診断が確定します。また、痙攣や三叉神経痛や片頭痛を伴う場合は、MRI検査しておくことも重要です。抗核抗体検査や脊髄液検査も診断に役立ちます。
鑑別疾患
ゴールデンハー症候群(goldenhar syndrome、oculoauriculovertebral spectrum)
限局性強皮症 (en coup sabre)
脂肪委縮症
ベル麻痺
治療
自己免疫疾患の可能性があるため、免疫抑制剤(メソトレキセート、ステロイド、シクロフォスファミド、アザチオプリン)が使用されることがありますが、有効性はまだ確立していません。
外科治療は機能的ならびに整容的改善を目的として行われます。病状が進行する早期から治療介入するべきか、あるいは病状が停止してから治療介入するべきかについて、議論のあるところです。
顕微手術による顔面再建術(皮下組織、筋肉、骨などを含む遊離皮弁の自家移植術)が行われることが多く、必要に応じて顎矯正手術や骨伸延術も行われます。
執筆:2015.3