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成人T細胞白血病・リンパ腫

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

品川シーサイド皮膚・形成外科クリニック > 成人T細胞白血病・リンパ腫

成人T細胞白血病・リンパ腫 (adult T-cell leukemia/lymphoma: ATLL)

本症はヒトTリンパ向性ウィルス1型(human T-lymphotropic Virus type 1: HTLV-1) の感染によって引き起こされる悪性リンパ腫の一種で、大部分が白血病化します。HTLV-1はC型レトロウィルス(RNAウイルスの一種)で、感染成立してから長い潜伏期間を経て、T細胞のモノクローナルな無限増殖を引き起こすとされます。
感染経路としては、母子間垂直感染、性行為水平感染、血液感染が存在します。大部分は母乳を介した母子間感染で、母乳中のHTLV-1感染リンパ球が乳児の消化管内で乳児のリンパ球に接触することでHTLV-1は新たに感染します。レトロウイルスであるため、リンパ球DNAに組み込まれ、ウイルスの再生産を行って潜伏感染します。HTLV-1のp40 taxは宿主細胞のIL-2レセプター遺伝子などを活性化し、その分裂増殖を引き起こします。こうして無限増殖を繰り返す宿主細胞がその過程でなんらかのエラーをおこし、形質転換をおこしてATLLを発症すると考えられていますが、その詳細機序は不明です。また、性行為感染は精液を介する男性から女性への感染ですが、成人期以降に感染しても発症はほとんど見られません。
感染から発病までの潜伏期は通常40-60年であり、乳児期に感染した多くの感染者は終生発症しないが、一部の感染者が発症します。患者の多くは40歳以上ですが、稀に若年発症も報告されています。

疫学

日本では、患者出身地が九州63%、北海道・東北9%、南紀・南四国地方5%と西日本に多く、抗HTLV-1抗体陽性キャリアは約120万人存在し、毎年600~700人が発症と推定されます。キャリアの生涯を通しての発症危険率は2-6%です。
世界的には、カリブ海沿岸諸国、中央アフリカ、南米などで頻度が多いです。

症状

皮膚症状はきわめて多彩な皮疹がみられ、数mm~10cm大と大小さまざまの硬い、紅褐色で半球状に隆起した腫瘤が多発します。また、落屑を伴う紅褐色の浸潤性隆起局面の形成や紅皮症を伴うこともあります。この他にも全身のリンパ節腫大、肝脾腫、下痢・腹痛などの消化器症状もしばしば伴います。
また、病勢の進行により、非特異的な皮疹(紅斑、蕁麻疹、後天性魚鱗癬、掌蹠角化、湿疹様皮疹など)が出現し、免疫能低下による日和見感染症(細菌・真菌・ウィルス・寄生虫感染など)を高頻度に合併します。さらに、高カルシウム血症になりやすく、全身倦怠感や便秘、意識障害も生じることがあります。
ATLLでは、臨床病型分類(急性型、慢性型、くすぶり型、リンパ腫型、急性転化型)が広く用いられています。しかし、この分類は境界型が存在したり、経過中に自然寛解や急激な悪化を認めるため、臨床病型が短期間で変更になることも多いです。
合併症には、HTLV-1 関連脊髄症(HAM / TSP)、HTLV-1 関連関節症(HAAP)、HTLV-1 関連ぶどう膜炎などがあります。

検査所見・診断

本症の診断には、まず血清抗HTLV-1 抗体価を測定し、陽性患者に対してサザンブロット法を行い、HTLV-1 proviral DNAの腫瘍細胞への単クローン性の組込みを証明して確定します。末梢血では、白血球の著増(1万~数十万/μl)と特異な形態を呈する異型リンパ球の出現〔花弁状腫瘍細胞(flower cell)〕、血中LDH上昇(腫瘍細胞の崩壊による)、血清Ca上昇、可溶性インターロイキン-2レセプターの増加を認めます。この他、肝機能障害や低蛋白血症も高頻度で認めます。

治療・予後

本症の臨床病型分類を正確に診断してから、治療方針を決定します。
臨床症状を呈しない慢性型とくすぶり型に対しては、急性転化に注意しつつ経過を観察します。急性型やリンパ腫型、予後不良因子(BUN上昇、低蛋白血症、LDH高値のいずれか)を有する慢性型、急性転化型に対しては、非Hodgkin リンパ腫や白血病に準じて多剤併用化学療法などを行います。しかし、ATLL細胞は抗がん剤が最初から効きにくかったり、途中から効きにくくなったりする性質があり、化学療法にしばしば抵抗性を示します。また寛解が得られたとしても、再発率は非常に高いことが知られています。ATLLに伴う免疫不全に加えて、抗がん剤が効きにくいことから、ATLLの予後(治療後の経過)は現在でも極めて不良で、多くは治療開始2年以内に死亡します。
最近、ATLLに対する同種造血幹細胞移植の有効性が発表され、ATLLの予後の改善に大きく貢献することが期待されています。さらに、種々の抗体療法(ATL細胞表面に存在するCCR4に結合する抗体で、結合したATL細胞をADCC活性により傷害して抗腫瘍効果を示す)や分子標的薬剤などの新薬の臨床応用もはじまろうとしています。
細胞性免疫低下による日和見感染症に対しては、感染症の病原体に合わせて治療を行います。高カルシウム血症に対しては大量輸液と利尿剤、カルシトニンやビスホスホネート投与等が行われます。

予防

本症は垂直感染したHTLV-1キャリアから発症するため、発症を減少させるには、垂直感染のほとんどを占める母乳感染を予防することが最も重要です。このために、妊娠中に妊婦の抗HTLV-1抗体検査をできるだけ実施して、抗体陽性の母親に対しては、乳児への断乳を指導します。

執筆:2011.11