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Ramsay Hunt症候群

本症候群は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)によって生ずる半側の顔面神経麻痺を主徴とする帯状疱疹の1病型です。

原因

小児期に罹患した水痘の口腔粘膜疹からVZVが逆行性に、あるいはウイルス血症によって顔面神経の膝神経節に到達後潜伏し、後年それが再活性化することで神経炎が生じ、腫脹した神経が骨性顔面神経管の中で自己絞扼を生じて、顔面神経麻痺(顔面半側の表情筋運動障害)が発症します。これに加えて、周囲の脳神経(聴神経)にも波及して、耳痛、難聴や眩暈などを併発したり、耳介の発赤・水疱形成を伴う帯状疱疹を合併することもあります。

疫学

本症候群の年間発生率は5人/10万人程度で、帯状疱疹患者のうち、本症候群に罹患するのは1%前後と考えられています。

症状

前駆症状として、耳痛、肩凝り、後頭部痛、舌のしびれなどを認めることが多く、その後に半側の顔面神経麻痺、患側耳介の帯状疱疹、難聴や眩暈などの患側聴神経症状が出現してきます。時に患側口蓋や舌にも病変が出現することもあります。
上記3主徴(顔面神経麻痺、耳介の帯状疱疹、聴神経症状)が同時に出現することは少なく、通常は数日間で順次症状が出現することが多いです。また、3主徴がそろうのは60%程度とされ、残り40%は耳介の帯状疱疹か聴神経症状を欠如しています。
逆に顔面神経麻痺症状のみで、臨床所見ではBell麻痺[単純ヘルペスウイルス(HSV-1)が関与する顔面神経麻痺]との鑑別が困難な症例もあります(zoster sine herpete)。
稀に下位脳神経炎や脳炎をきたし、重篤化することもあります。

治療

本症候群ではBell麻痺と異なり、顔面神経麻痺の自然治癒は30%程度しか見込めず、その予後は不良で後遺症の残る頻度が高いことから、早期診断と積極的な治療介入、誘発筋電図などによる予後診断が重要です。
顔面神経自体の変性は発症後も進行を続け7~10日で完成するため、発症後速やかに、かつ十分な治療を行い、神経変性を如何に軽減するかが治療の最も重要なポイントになります。
急性期の治療は、ステロイドと抗ヘルペスウイルス薬の投与を行います。ステロイドは顔面神経が浮腫や炎症で神経変性することを予防するために使用されます。
本症候群とBell麻痺の鑑別ができない場合は、本症候群としてVZVに対する用法・用量の抗ヘルペスウイルス薬治療を行い、後日HSV-1によるBell麻痺と判明したら、抗ヘルペスウイルス薬を減量した用法・用量に切り替えます。これは、確定診断するのに時間を浪費して病状が進行してしまうと、顔面神経麻痺の後遺症が残ってしまうので、それを防止するために初期治療から必要十分な治療を行うべきだからです。
発症10日以降に麻痺の程度や電気診断学的検査をもとに予後を推定し、不良と診断され6か月を経過しても回復傾向が無ければ、形成外科的手術も考慮します。リハビリでは、拘縮予防のためのマッサージや表情筋をゆっくり動かす運動を行います。
また、顔面神経麻痺の回復途中から病的共同運動(閉眼時に口が動く、あるいは口を動かすと同時に眼が閉じる)や患側の拘縮(いわゆるヒョットコの顔)が著明になり、麻痺そのものに加え、これらの後遺症と一生付き合わなければならなくなる可能性もあります。
本症候群の発症を予防するためには、幼少児期の水痘ワクチン接種が有効と考えられます。一方、水痘既往のある成人においては、ウイルス再活性をきたさないことが肝要で、水痘ワクチンの接種によるVZV特異的細胞性免疫能の強化が有効です。

執筆:2013.11