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乳房外ページェット病

乳房外ページェット病 (extramammary Paget disease)

本症は、アポクリン汗器官由来細胞あるいは表皮細胞幹細胞原発と考えられている悪性皮膚腫瘍です。表皮内に限局している場合には予後は良好ですが、下床に浸潤すると、予後がきわめて不良になるため、早期発見して治療することが重要です。

症状

大部分が外陰部(鼠径、陰嚢、陰茎、恥丘、陰唇など)に生じ、その他に肛門周囲や会陰、腋窩、臍囲にも生じることもあります。
乳房Paget 病と同様に、紅斑・褐色斑または脱色素斑様の浸潤性局面を認め、ときに腫瘤形成・糜爛・潰瘍形成も認めます。掻痒を伴うことも多いです。病変は徐々に拡大して進行すると、基底膜を破壊して所属リンパ節転移も認め、予後不良となります。

多臓器合併
本症での他臓器癌の合併は14.7%と高頻度であるため、本症診断後も他臓器癌発症に対する注意および検索が必要です。

疫学
60歳代以降の高齢者に好発し、本邦では男子は女子の2 ~ 3 倍の発生頻度です。また、本症が初期に自覚症状が軽微で比較的気付きにくい部位に発生するという患者側の側面と、湿疹や真菌症と誤診しやすい診療側の側面が重なり合った結果、受診と治療が遅れると考えられます。

病理所見
表皮内および汗管・毛包内に、大型胞体で明るいPaget 細胞が散在性および集簇性に認められ、胞巣を形成します。腫瘍細胞の真皮内浸潤頻度は概ね30%とされ、さらに所属リンパ節転移は10%程度とみられています。また、免疫組織化学的に皮膚原発の乳房外パジェット病はGCDFP15陽性、CK20陰性(GCDFP15+/CK20-)であることが知られており、内臓癌のパジェット現象との鑑別に役立ちます。

鑑別診断
湿疹、カンジダ症、陰部白癬、Bowen 病、Hailey-Hailey 病、増殖性天疱瘡などと鑑別します。他疾患を否定し、病理組織検査でPaget 細胞を証明できれば確定診断できます。
また、外陰部・肛門周囲・会陰などはパジェット現象(皮膚に隣接する臓器の癌が上皮内を移動して表皮へ到達し、表皮内癌の所見を呈する)を認めることがあるので、膀胱癌、子宮癌・膣癌、直腸肛門癌の精査を行うことが重要です。

治療

治療方法の第一選択は根治的広範囲切除手術です。上皮内に病巣が限局している場合にリンパ節転移の報告はみられないので、単純外陰切除が行われます。それ以外の場合は、原則として皮疹境界から3cm程度離して拡大切除術が行われますが、本症は局所再発率が高いとされています。その理由として、部位的特殊性による生理的色素沈着により腫瘍の境界がわかりにくいこと、多中心性に病巣が存在する傾向があること、一見正常にみえる周辺部分にも組織学的にPaget細胞が存在していること等が挙げられます。
このため、mapping biopsy(病巣周囲を複数箇所、小さな円筒状のメスで生検し、癌細胞の有無を検索する方法)を併用して、健常部との境界を確認する事で切除範囲をより確実に設定して病変を切除できます。深さは組織学的腫瘍細胞の浸潤の程度、ことに皮膚付属器の上皮内を深部へ進展していることから、脂肪層中層から筋膜直上での切除が必要です。リンパ節郭清は原病巣が浸潤癌で、かつリンパ節転移のある症例が原則として適応となりますが、予後に影響しないとの報告もあり、今後の検討が必要です。本症例は高齢者に好発するので全身状態、合併症、浸潤の度合、発生部位などから根治的治療を行えない場合も多いです。手術適応外および手術拒否の症例などで保存的療法を施行する場合には主に電子線照射を中心に放射線療法が行われます。一般に放射線療法、凍結手術などは、毛包・汗腺組織内の腫瘍細胞を完全に除去できず再発率が高いと報告されていますが、種々の余病を持つ高齢者においては保存的治療として放射線療法は有用と考えられます。
尚、内臓転移を生じた乳房外パジェット病の進行期症例では血清CEA値が病勢の評価や治療効果の判定の参考になる場合があります。

予後
乳房外Paget病の予後に関しては表皮内に限局する表在性病巣のみの場合は予後良好ですが、浸潤癌や他臓器癌の併発例の予後はきわめて不良で、放射線治療や化学療法を受けても予後に差はなく、特に陰核に病変が及んでいる例では非常に悪いので、積極的な治療が必要とされます。乳房外Paget病全体の5年生存率は77。1%~84。5%との報告があり、全体としては比較的予後は良好です。

執筆:2011.3