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毛細血管拡張性小脳失調症

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

品川シーサイド皮膚・形成外科クリニック > 毛細血管拡張性小脳失調症

毛細血管拡張性小脳失調症 (ataxia-telangiectasia)

本症は、小脳性運動失調、毛細血管拡張、易感染性の3主徴を伴う、10万人に1人程度に発症する稀な常染色体劣性遺伝疾患です。また、本症は放射線高感受性であるため、様々な予防措置をとるためにも早期診断が重要です。

臨床症状

運動失調は幼児期の歩行開始時頃には明らかになり、進行性です。遅れて、眼球結膜・眼瞼皮膚の毛細血管拡張が3-6歳頃から認められ、引き続き皮膚に毛細血管拡張が出現します。耳や頬から始まり、次第に四肢へと拡大します。思春期以降では多形皮膚委縮や硬化をきたし、早老症様になることがあります。
また、免疫不全症により、特に呼吸器、副鼻腔感染を繰り返しますが、日和見感染することは稀です。むしろ、神経症状が進行してからの誤嚥性肺炎などの細菌感染症が生命予後を決定します。また、成長に伴い、様々な悪性腫瘍(大部分はリンパ腫や急性リンパ性白血病ですが、その他の固形癌も生じます)を高頻度に生じます。更に、内分泌異常症(糖尿病、性成長異常など)を認めることもあります。思春期から20歳代には、呼吸器感染症や悪性腫瘍で亡くなることが多いです。

病因

11番染色体(11q22-23)のATM (ataxia-telangiectasia-mutated) 遺伝子の変異により生じます。
ATMはDNA損傷修復反応(DNA damage response: DDR)、特に二重鎖DNA(double strand DNA: dsDNA)切断修復に重要な役割を果たす分子であり、生体にとって危害の大きいdsDNA切断に際して活性化し、下流の様々な鍵となる分子をリン酸化することにより、細胞周期を制御し、DNA切断修復あるいはアポトーシスに関与しています。従って、ATM変異は、細胞分裂や、遺伝子再構成・体細胞突然変異など免疫学的多様性に変調を生じさせるため、免疫不全症や易発癌性を生じると考えられています。
しかし、本症における小脳失調に関する機序に関しては、現在のところ未だに解明されていません。

検査所見

血清αフェトプロテイン値の上昇、血清IgA、IgE、IgG2の低下、CD3+, CD4+, CD20+細胞の減少が認められる。CD4+CD45RA+ naive T細胞の減少も特徴的です。この他にも、CEAの増加、電離放射線高感受性、リンパ球、線維芽細胞の染色体異常を認めることもあります。
頭部CTやMRIでは小脳虫部委縮や第4脳室の拡大を認めます。単純X-pで鼻咽頭アデノイドが極度に小さい或いは認められない場合も、本症を疑います。胸腺委縮や肺炎様病変を認めることもあります。加齢とともに悪性腫瘍やリンパ腫病変なども認められることがあるので、注意が必要です。

本症の診断基準 (AT Children's Project HP改変)
臨床症状
  1. 歩行開始と共に明らかになる歩行失調(体幹失調):必発症状
    徐々に確実に進行(2歳から5歳までの間には進行がマスクされることもある)。
  2. 小脳性構語障害・流涎
  3. 眼球運動の失行(apraxia)、眼振
  4. 舞踏病アテトーゼ(約30%程度に出現)
  5. 低緊張性顔貌
  6. 眼球結膜・皮膚の毛細血管拡張
    6歳までに50%、8歳時で90%があきらかに。
  7. 免疫不全症状(反復性気道感染症)
    30%では免疫不全症状を認めない。
  8. 悪性腫瘍:発生頻度が高い(特に10歳以降に発症しやすい)。
  9. その他(認めることがあるもの):発育不良、内分泌異常(耐糖能異常:インスリン非依存性糖尿病)、皮膚、頭髪、血管の早老性変化
検査データ
  1. αフェトプロテインの上昇(2歳以降:95%以上で)
  2. CEAの増加(認めることがある)
  3. IgG (IgG2), IgA, (IgE)の低下(70%で)
  4. CD4細胞中CD4+CD45RA+細胞の比率の低下
  5. その他:電離放射線高感受性、リンパ球、線維芽細胞の染色体異常 

鑑別診断

Gaucher病、Acanthosis Nigricans、Hartnup病、NIemann-Pick病、Nijmegen Breakage症候群、Refsum病

診断

毛細血管拡張の症状は約50%が7歳前後までに認められるに留まるため、毛細血管拡張がない段階で本症と診断することが重要になります。2歳以降の小脳失調症でα-FPが高値であれば、本症を積極的に疑う必要があります。更にIgA低値であれば、さらに疑いが濃厚になります。
確定診断はATM遺伝子解析によるが、その塩基配列決定には多大な労力を必要になります。
有意な遺伝子変異かどうかを判断するためにも、Westernblot法によるATM蛋白(3,056アミノ酸からなる)の確認も重要です。
最近、電離放射線照射あるいはH2O2刺激後のリン酸化ATMをFACSで測定するスクリーニング検査も考案されています。

治療

現在のところ本症に有効な治療方法はなく、進行を遅らせる方法もありません。大半の治療は、症状の部分的緩和に対する対症療法です。理学療法、作業療法、言語療法は、現在可能な機能を保つために重要です。また、IgGが低下する症例ではγグロブリンの補充が必須です。
本症においてはX線などへの曝露は最小限とし、DNA損傷を極力避けることが重要です。抗酸化薬であるN-acetyl cyteine (NAC)やビタミンCの摂取が一部の症状を緩和させるとの期待があり、また、鉄キレート剤であるDesferrioxamineや少量ベタメタゾンが運動失調改善に有効との報告もあります。また、exon skippingをブロックするantisence morpholinoによる治療、read throughを狙った治療などに期待が寄せられています。

執筆:2013.8