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顕微鏡的多発血管炎

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

本症は毛細血管、細小動・静脈を含む微小血管の血管炎で、血管壁への免疫複合体沈着がほとんどみられないことと抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性率が高いことを特徴とし、ANCA関連血管炎症候群の一つと考えられています。このうち、肉芽腫性病変のみられないものを顕微鏡的多発血管炎と定義され、Wegener肉芽腫症やChurg-Strauss症候群(アレルギー性肉芽腫性血管炎)と区別します。また、本症は原因不明で壊死性糸球体腎炎と肺の毛細血管炎を高頻度に伴うことも特徴の一つです。
男女比はほぼ1:1で、好発年齢は55~74才と高齢者に多く、年間発症率はドイツにおける3人/百万人から英国における8.4人/百万人と報告されています。我国での発症率や有病率は不明ですが、欧米に比較して多いと考えられています。本邦では2006年から結節性多発動脈炎と顕微鏡的多発血管炎が別個の調査票に分けられて調査が開始されています。


主要徴候

発熱、体重減少、易疲労感などの全身症状(約70%)と共に組織の出血や虚血・梗塞による徴候が出現します。壊死性糸球体腎炎が最も高頻度であり、血尿、赤血球円柱と蛋白尿が出現し、血清クレアチニンが上昇します。緩徐に進行する例もあるが、数週間から数ヶ月で急速に腎不全に移行することも多いので、早期診断が極めて重要です。古典的結節性多発動脈炎に比べると高血圧は少ない(約30%)。その他高頻度にみられるのは、皮疹(約60%:紫斑、皮膚潰瘍、皮下出血など)、多発性単神経炎(約60%)、関節痛(約50%)、筋痛(約50%)などです。肺毛細管炎による間質性肺炎(約25%)や肺胞出血(約10%)を併発すると、咳・労作時息切れ・頻呼吸・血痰・喀血・低酸素血症をきたします。心筋病変による心不全は約18%にみられますが、消化管病変(腹痛、消化管出血など)は約20%と他のANCA関連血管炎に比べて少ないです。

主要検査所見

全身症状と相関して赤沈亢進、急性相反応物質(CRP、フィブリノーゲンなど)の増加、白血球増多、血小板増多など、マクロファージ由来炎症性サイトカインによる非特異的急性炎症反応がみられます。炎症反応だけでは説明困難な貧血をみた場合は肺胞出血を疑います(血痰がみられないことが少なからずある)。
尿所見では血尿、蛋白尿とともに尿沈渣に赤血球や赤血球円柱の出現が壊死性糸球体腎炎を示す重要な所見です。1ヶ月以内に血清クレアチニンが2倍以上に上昇する場合、急速進行性腎炎として迅速な生検診断と治療を要します。
間質性肺炎やびまん性肺胞出血は、胸部単純X線や高分解能CT(HRCT)で特徴的所見を認め、前者では進行すると牽引性気管支拡張や容積減少、蜂巣肺を認めるようになり、低酸素血症、肺胞動脈酸素分圧較差の増大、肺胞拡散能の低下、拘束性肺機能障害による呼吸不全を呈します。後者は極めて予後不良な難治性病態で、気管支肺胞洗浄液検査は血性となり、肺感染症との鑑別にも重要です。

診断

全身症状とともに血管炎による臓器障害が見られた場合、本症を疑い、障害組織の生検により免疫複合体沈着に乏しい細小血管主体の壊死性血管炎を証明します。確定診断には組織の生検、特に腎生検が必要です。半月体形成や糸球体のフィブリノイド壊死を伴う壊死性糸球体腎炎で免疫グロブリンや補体の沈着がないか乏しいことを確認します。Goodpasture症候群と異なり、糸球体や間質の新旧病変(急性期壊死性病変と線維化した硬化性病変)が混在する点が特徴です。腎生検が困難な場合は、病変のある皮膚、腓腹神経、筋、肺などが生検対象となり、細小血管壁に好中球浸潤を伴う壊死性血管炎で免疫複合体や補体成分の沈着がないことで診断します。
ANCAの測定は2種類の方法があり、疾患特異性が高いです。間接蛍光抗体法の染色パターンから核周囲型(p-ANCA)と細胞質型(c-ANCA)に、ELISA法による抗原特異性からMPO-ANCAやPR3-ANCAに分類される。顕微鏡的多発血管炎では、p-ANCAの感度は58%、特異度は81%であり、MPO-ANCAの感度は58%、特異度は91%です。両者のいずれかが陽性の場合、その感度は67%、特異度は99%に上昇します。従って、血管炎を疑い、一つの方法で陰性であった場合には、もう一方の方法を実施する意義があります。ANCA陽性の診断的価値は高いですが、確定診断はあくまで組織診断であり、可能な場合は実施する必要があります。
鑑別診断として、他の全身性血管炎症候群(結節性多発動脈炎、Wegener肉芽腫症、Churg-Strauss症候群、Goodpasture症候群など)、SLEなどの膠原病、全身性に血栓を来す病態(抗リン脂質抗体症候群、細菌性心内膜炎、髄膜炎菌性髄膜炎、心房粘液種、血栓性微小血管障害(Thrombotic Microangiopathy: TMA))などを念頭に検索します。

治療

血管炎は、血管壁の破綻出血または虚血・梗塞により環流組織や臓器に進行性かつ非可逆的障害をきたすため、可及的早期に確定診断を行い、迅速に治療を開始することが長期的予後を改善する上で重要です。
MPO-ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、急速進行性糸球体腎炎などの腎限局型)の腎障害に対するステロイド治療にシクロホスファミド併用することは、日和見感染症(結核、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症など)や骨髄抑制などによる死亡率が高いなどの危険性から、専門家の間でも議論が分かれています。特に腎限局型血管炎を対象とすることの多い腎臓専門医の間では、ステロイド中心の治療が行われることも多いです。一方、腎以外の臓器障害(肺、心、消化管、中枢・末梢神経など)を伴う症例では、シクロホスファミド主体の治療を行うことが多いです。生命の危険を伴う最重症例には、ステロイド+シクロホスファミドに加えて血漿交換療法を併用します。症状が寛解した時点で、シクロホスファミドから他の免疫抑制薬(アザチオプリン、MTX、ミコフェノール酸モフェチルなど)に変更しますが、腎機能障害のある患者ではMTXを避けます。

執筆:2010.7