木村氏病
当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません。
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。
木村氏病(Kimura's disease)
本症は、無痛性のリンパ節症あるいは皮下腫瘤が頭頚部に出現して徐々に増大する、原因不明の稀な慢性炎症性疾患です。特に耳下腺部及びその近傍に好発します。稀に上咽頭や口腔内の粘膜下にも発生することがあります。四肢の掻痒や、倦怠感、発熱を伴うこともあります。
疫学
男性(男女比;3~9:1)に多く発症するのが特徴で、ほとんどが10~50歳で、東南アジアや日本に多いです。
現在までのところ、本症が悪性変化したとの報告は無い。
原因
感染や毒素による1型アレルギー反応が生じて発症する自己免疫疾患との説などがありますが、現在のところ、原因不明です。
症状
圧痛のない皮下結節が頭頚部領域(特に耳下腺&顎下腺)に出現し、リンパ節症を併発することが多い。稀に眼瞼、副鼻腔、喉頭蓋、鼓膜、咽頭側隙、口蓋、鼠経、胸、四肢にも出現することがあります。未治療のまま放置していると病変が潰瘍化したり、レイノー症状や凝固能亢進による四肢虚血や脳血栓が生じることがあります。
検査所見
1)血液検査
好酸球増多、血清IgE上昇を呈します。
好酸球カチオン性タンパク質(eosinophil cationic protein)は本症の病勢と相関する。
2)CT, MRI による画像検査
線維化と血管増生の程度により、個々の画像に変化がありますが、耳下腺周囲に境界不鮮明の病巣が多発し、リンパ節腫大を併発することが多い。
3)病理組織所見
不連続性の胚中心を伴うリンパ結節が、真皮網状層から筋膜上に占拠して増生し、濾胞過形成と著明な好酸球浸潤と、後毛細管小静脈の増生が特徴です。中心部ではhobnail様血管内皮細胞を伴う肥厚した血管を認めます。また、形質細胞様樹状細胞を認めることもあります。
*生検による病理組織検索を行い、本症の診断を行います。
鑑別診断
- 好酸球性血管リンパ球増殖症
- 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫
- ホジキンリンパ腫
- 悪性リンパ腫
- ランゲルハンス細胞組織球症
- キャッスルマン病
- 頭頚部悪性腫瘍
- IgG4関連疾患 など
治療
本症は良性であるため、病変による醜状がなければ治療せずに経過観察しますが、整容的観点から醜形が目立つ場合やその他の症状がある場合は治療の対象となります。
ステロイド内服は効果的ですが中止すると再燃するため、根治できません。ステロイド長期連用はその副作用のため、使用が制限されます。
また、ステロイドとセチリジン、あるいはレフルノミド、あるいは全トランス型レチノイン酸併用で再燃を遅らせたとの報告もあります。
シクロスポリン内服で緩解するが、中止すると再燃するとの報告もあります。
ステロイドの代替としてインムノグロブリンを使用して軽快した例や、ペントキシフィリン内服で症状が軽快するものの中止で再燃したとの例もあります。
イマチニブによる治療や光線力学療法も試用されています。
本症が遷延性で再発を繰り返す場合には、低~中線量の放射線療法も使用され、一定の効果があります。
外科治療による病変の可及的切除も行われますが、再発が高頻度に認められます。
以上のような治療方法が挙げられますが、根治的治療は確立されていません。
現在屡々行われている治療は、薬物治療を開始して効果がなければ、放射線治療単独、あるいは外科手術による病変の可及的切除とその後の放射線治療併用です。しかし、治療に抵抗して再燃することも多いため、今後の新しい治療方法の開発が期待されます。
執筆:2020.12