閉塞性動脈硬化症

閉塞性動脈硬化症(ASO)

何らかの原因により、「四肢の末梢動脈が狭窄・閉塞による循環障害(虚血)の病態」を総称して「末梢動脈閉塞症」(peripheral arterial disease;PAD)といいます。その中で最も頻度の高い「閉塞性動脈硬化症」(ASO)は、動脈硬化により主にコレステロールが動脈壁内膜に沈着して四肢末梢動脈の内腔が狭くなり、徐々に狭窄・閉塞を生ずる循環障害症状(冷感、しびれ感、下肢疼痛、壊疽など)の病態です。
動脈硬化は、四肢以外の動脈、例えば脳・頸動脈、冠動脈などの全身の動脈にも生じるため、それらの臓器の循環障害も併発することが多いことから、ASOを「全身の動脈硬化病変の一部分症状」として捉えることが重要です。動脈硬化には、比較的太い動脈に生じる粥状硬化、小動脈での中膜硬化および細動脈での細動脈硬化がありますが、 ASOでは特に粥状硬化が重要になります。また、糖尿病を基礎疾患とする場合には、中膜の高度な石灰化(Monckberg型)を呈することが多いです。
ASOの危険因子
1)男性 2)60歳以上 3)喫煙習慣 4)虚血性心疾患の既往 5)脳血管障害の既往 6)ストレス 7)生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満など)が挙げられます。
発生頻度と予後
全国に約660~760万人のASO患者がいると推測されますが、実際に治療を受けている患者数は78,000人(2002年の厚生労働省による患者調査)であり、多くのASO患者が潜在していると考えられます。食生活の欧米化と高齢化により、ASOの患者数は年々増加しています。
また、60歳以上を対象とした調査では、秋田県では24%、奄美大島では21%が「ASOの疑いあり」という報告もあります。
ASOの合併症
ASOは「全身の動脈硬化病変の一部分症状」と言われるように、ASO患者の動脈硬化は全身に及んでいると考えられます。従ってASOの併存疾患も多岐にわたりますが、特に高血圧、糖尿病、脳血管障害、虚血性心疾患の合併が多いとされます。
 

症状・分類

日常診療において、ASOの症状を表すFontaine分類が頻用されます。 この分類は「循環障害の重症度」とも関連して治療選択にも応用できるため、非常に有用です。
Fontaine I度 (しびれ、冷感)
動脈硬化が原因で足の血行が悪くなり、急激な運動や連続歩行の直後などにしびれ、冷感がみられます。しかしこの段階では血行不全はそれほどひどくなく、多くの場合症状もすぐ消失し、通常は無症状です。また皮膚変化としては皮膚の、皮下脂肪の委縮、脱毛などがみられます。
Fontaine II度 (間歇的跛行期)
下肢血行不全の特徴的症状です。間歇的跛行といって一定の距離を歩行した後、特定の筋肉に痛みや硬直を起こして歩行不能になりますが、しばらく休むと再び歩けるようになります。安静時にはかろうじて血流が保たれていますが、歩行時には足へ十分な血液(酸素)が供給できなくなって起こる症状です。治療するかどうかは、患者さんの生活状況と不自由さを医師とよく話し合った上で決まります。
Fontaine III度 (安静時疼痛期)
更に血行が悪くなると、安静時にも血液(酸素)供給が不足し、疼痛が起こるようになります。足を少しでも下げると痛みが軽くなるので、ベットから足を下げて寝るような姿勢をとる人もいます。こうした状態になると足の潰瘍、壊死が起こりやすくなるため、必ず治療する必要があります。
Fontaine IV度 (潰瘍、壊死期)
小さな傷や圧迫を受けやすい場所、たとえば足趾の先端部などの血流の悪い部位から皮膚の壊死・潰瘍が生じます。血流が悪いために治りが悪く、患部は拡大します。最悪の場合は、足の切断にもなりかねません。直に適切な治療を行う必要があります。
※脊柱管狭窄症(spinal canal stenosis;SCS)は、好発年齢と症状(間歇的跛行)がASOと類似するため、鑑別診断が重要となります。
 

診断

ASO患者は全身の主要臓器に動脈硬化性疾患を併発していることが多く、生命予後は極めて不良です。従って、適切な診断による早期発見が重要になります。
診断の中でも「問診」と「触診」は、ASOを診断する上で特に重要です。
Fontaineの症状分類に合致する症状が無いかどうかを診察時に視診と問診で確認します。高齢者は、「しびれ」や「冷感」などの初期症状を年齢のせいと考えて訴えないことが多いため、危険因子の既往の有無や冷感などの症状を積極的に聴取することが必要です。
触診
触診では、左右の肢を比較することが極めて重要です。下肢の皮膚温、動脈(足背動脈、膝窩動脈、後脛骨動脈)拍動の強さ(なし、弱い、正常)を左右の肢で比較することで、狭窄・閉塞の有無を調べます。狭窄・閉塞がある患肢では、末梢で拍動が弱かったり、消失していたりします。
理学所見
下肢では挙上試験と下垂試験があります。
挙上試験仰向けに寝て両下肢を上げて屈伸運動(約30秒)を行い、左右の足の色調を調べます。狭窄・閉塞がある患側には蒼白がみられます。
下垂試験椅子等に腰掛けて両下肢を下垂させ、足が赤みを帯びてくる時間の左右差を調べます。正常肢では、10秒程度で赤みを帯びてきますが、狭窄・閉塞がある患側では、1分以上かかることもあります。
上腕・足関節血圧比(ankle brachial pressure index;ABPI)
近年、四肢の血圧から得られる上腕・足関節血圧比(ankle brachial pressure index;ABPI)の診断的価値が評価されています。ABPIは、足関節収縮期血圧/上腕収縮期血圧の比で、ASOの客観的な診断および重症度評価の指標とされています。
ABPI:評価基準(安静時)
ABPI<0.9 疑いあり ABPI<0.8 疑いの可能性が高い 0.5<ABPI<0.8 ASOが1個所以上ある ABPI<0.5 ASOが複数個所ある
ABPI測定の問題点としては、透析患者や糖尿病患者は動脈壁の石灰化により、充分な圧迫が得られず、ABPIが通常より高くなってしまい偽陰性を示すことがあります。このような症例では、(1)運動負荷後のABPI、(2)足趾血圧によるTBPI(toe brachial pressure index)の計測が有用です。
画像診断
初期症状における循環障害の有無の判定は、画像診断でなくても可能ですが、病変部位の特定などを行うには何らかの画像診断が必要になります。画像診断には、主に以下のものが挙げられます。
1)超音波検査
超音波を用いて血管径を計測することで、狭窄部と非狭窄部の比率より狭窄率を数値で表し、血流を測定することで血流速度波形を分析し、狭窄部を検出することが可能です。また、カラードプラ法を応用することで、ほぼ全身の動脈が観察可能であり、現在最も期待されている検査方法の一つです。
2)血管造影(angiography)
カテーテルからヨード造影剤を血管内に注入してX線撮影を行い、それにより血管の形状を調べます。最近では、デジタルサブトラクション血管造影(digital subtraction angiography;DSA)と呼ばれる骨の重なりに影響を受けずに、細かい血管をコンピュータ解析できる技術も開発されています。
3)CT血管造影(CT angiography;CTA)
コンピュータ断層撮影装置(computed tomography;CT)を用いた血管造影です。CTAは後述のMRAと比べて細かい血管も観察することが可能です。また、血管壁の石灰化の程度も観察できるため、治療方針を決定するのに有用です。*血管壁の石灰化の程度が強い場合には不鮮明になる場合があり、MRAのほうが適している場合もあります。
4)MR血管造影(MR angiography;MRA)
磁気共鳴撮影装置(magnetic resonance imaging;MRI)を用いた血管造影です。造影剤を使用しなくても撮影可能ですが、ガドリニウム造影剤を使用することで、より鮮明な画像診断が可能です。*磁場・電磁波を使用するため、ペースメーカーなどや金属が埋め込まれている患者には利用できません。
 

治療

ASOには種々の治療方法がありますが、大きく内科的治療と外科的治療に分類されます。ASO患者の多くは下肢のみならず、脳・頸動脈、冠動脈などにも動脈硬化を生じていることが多く、ASOを「全身の動脈硬化の一部分症状」として捉え合併疾患((脳、心臓、腎臓など)や動脈硬化対策(喫煙、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、運動不足、ストレスなど)を含めた総合的な治療が必要になります。
内科的治療ASOの内科的治療には理学療法と薬物療法があります。
1)理学療法
理学療法は内科的治療の一つで、運動療法や温熱療法などがありますが、主に運動療法が行われます。 
i)運動療法運動療法はFontaine II度の間歇性跛行の初期治療に有効で、歩行訓練が最も効率的とされています。間歇性跛行は下肢筋肉の血流障害による疼痛ですが、運動療法により、比較的細い血管の側副血行路が発達し、血流障害は改善され、歩行距離が増加します。
運動療法のポイント・トレッドミルでの歩行訓練(3.2km/h)・週3回、約1時間ずつ3ヵ月以上続ける。・疼痛発生まで歩行し、疼痛緩和まで休息し、歩行を繰り返す。
運動療法が無効な症例には、血行再建術を行います。
ii)温熱療法温熱療法の代表的なものとして、炭酸泉足浴があります。炭酸泉足浴を行うことにより、皮膚に付着する炭酸ガスが増加し、中枢へ酸素不足の信号が送られることで、血管拡張が促進され、血流量の増加を促します。また、自律神経系への作用や、ヘモグロビンの酸素解離促進作用も報告されています。炭酸泉足浴は、安全性が高く、施行も容易ですが、治療効果の持続性はないため、他の治療手段との併用が必要です。
2)薬物療法
ASOに対する薬物療法の目的は、冷感・しびれ感等の症状改善、運動療法の補助療法や血行再建・血管内治療による開存率の向上、全身の血管イベント抑制などが挙げられます。ここでは、わが国で承認されている薬剤について列挙します。
血管拡張作用、抗血小板作用、抗血栓作用、微小循環改善作用、血管平滑筋細胞増殖抑制作用、動脈硬化抑制作用などを有する下記のような薬が使用されています。
ベラプロストナトリウム(プロサイリンなど)
シロスタゾール(プレタールなど)
塩酸サルボグレラート(アンプラーグなど)
塩酸チクロピジン(パナルジンなど)
イコサペント酸エチル(エパデールなど)
注射薬
アルプロスタジル(リプル、パルクスなど)
アルプロスタジルアルファデクス(プロスタンディンなど)
アルガトロバン(スロンノンなど)
パトロキソビン(デフィブラーゼなど)
 
外科的治療ASOの外科的治療には、血管内治療とバイパス術などの外科的手術があります。
1)血管内治療
血管内治療とは、経皮的に動脈内に治療用カテーテルを挿入し、血管の狭窄および閉塞部を拡げる治療をいいます。主なものに経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty;PTA)があります。近年では、カテーテルなど医療材料の進歩により、血管内治療成績も向上し、治療法の選択肢も多様化してきています。
血管内治療の種類と適応
i)バルーン拡張術
バルーン付きのカテーテルにより閉塞部分を拡張させます。
血管内治療の最も一般的な方法で、特に限局性の狭窄病変に有効です(5年開存率70%)。
ii)ステント留置術
円筒形の金属製ステントを血管に挿入・留置します。バルーン拡張型(Palmaz)と自己拡張型(Wallstent)などのステントがあります(5年開存率85%、再発率10%)が、最近では血管の再狭窄予防効果を持つ薬剤が塗布されたステント製品もあります。
血管内治療再発例、広範囲閉塞例、石灰化病変、広範囲多発性狭窄、偏心性狭窄性病変、バルーン拡張不十分例、合併症(急性閉塞・内膜剥離・解離など)発現時などに適応となります。
iii)アテレクトミー(atherectomy)
病変が硬くてバルーンやステントが適さない場合に、突出した血栓内膜部分を削ることもあります。偏心性の狭窄、バルーンPTA後の残存狭窄、ステント留置後の再狭窄に有効です。場合により抗血小板薬を併用します。
PTAは、腸骨動脈領域における動脈病変で、初期成功率、5年開存率ともに高く、最も適した治療法です。一方、大腿・膝窩動脈や末梢の動脈病変においては、可動部であるためステントの破綻が非常に多く、血管内治療よりも外科的手術の方が、よい治療成績が示されています。
2)外科的手術
ASOの手術目的は、「肢機能の回復」と「足肢切断の回避」にありますが、動脈病変の存在が必ず外科的治療の選択につながる訳ではありません。ASO患者の肢虚血重症度と治療目標に、動脈閉塞部位と範囲、併存疾患重症度、再建血管の開存率、生命予後などを加味して、手術選択を慎重に検討する必要があります。
ASOの手術の種類
i)血栓内膜摘除術(thrombo endarterectomy;TEA) 
閉塞部の血管が太く、短い範囲の場合には、血管を切開し、閉塞部の動脈硬化病変(血栓)と肥厚した内膜を除去します。
ii)バイパス術(閉塞部位を迂回するために血管を移植する方法)
血管が完全に閉塞して、カテーテルによる治療が困難な症例に行われます。
代用血管には、ポリエステルやテフロンなどでできた人工血管と、体内の取り除いても支障がない血管を用いる自家代用血管があります。
iii)交感神経切除術
交感神経を切除することで、血管拡張を促進して血流を改善させます。
症状の改善は一時的なものであるため、TEAやバイパス術での血行再建が困難な症例に行うことがあります。
iv)下肢切断下肢の壊死が重症で、内科的治療や外科的治療による血行再建が不可能な場合に、救命を目的として切断が行われます。しかし、切断後は日常生活動作やQOL(quality of life)の低下が著しく、生命予後も悪くなります。
 
血管新生療法
近年の血管内治療や外科的手術は著しく進歩しています。しかし、既存の治療法では功を奏さず、下肢切断を余儀なくされる重症例があります。このような重症例に対する新しい治療法として、血管新生療法が注目されています。
血管新生療法は、血管増殖因子やその遺伝子などを用いて、血管新新生や側副血行路を発達させ、虚血状態を改善する治療法です。
i)遺伝子治療
血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)遺伝子を特殊なバルーンカテーテルを介して血管内皮細胞に導入したり、VEGFプラスミドを下肢の骨格筋細胞に直接注入する方法が開発されています。既に欧米ではASO患者へのVEGF遺伝子導入による治験では、70%以上の症例に血管造影上明らかな側副血行路の発達がみられたとの報告があります。我国においては、現在、ASOやBuerger病に対して肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)遺伝子を用いた血管新生療法の治験が行われています。
ii) 自家骨髄細胞移植
自家骨髄に血管内皮前駆細胞が含まれることが見出されたため、この血管内皮前駆細胞を虚血下肢に移植することで、血管新生や側副血行路を促進する方法も試行されています。
 

予後

重症虚血肢(Fontaine III & IV)の場合、1年後の生存率は75%で、その内30%が肢切断となり、45%が肢切断を免れ、5年後の生存率は半数以下となっています。一方非重症虚血肢では、5年後の転帰は症状安定した跛行が70-80%、跛行の悪化が10-20%、重症虚血肢化5-10%とされています。重症虚血肢に陥る危険因子は、背景因子によっても大きく異なり、糖尿病4倍、喫煙継続3倍、脂質異常2倍、65歳以上2倍、ABI<0.75 2倍、 ABI<0.5 2.5倍とされています。また、重症ASOでは冠動脈疾患や頚動脈疾患の罹患率が高いため、生命予後は不良です。

執筆:2011.1

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