Fabry病

本症は、ライソゾーム加水分解酵素の1つであるα-galactosidase A(α-gal A)活性の欠損または低下により生ずるスフインゴ糖脂質代謝異常症です。本症ではα-galA活性の欠損または低下により、スフインゴ糖脂質[特にglobotriaosylceramideグロボトリアオシルセラミド (GL-3) ]が血管の内皮細胞や平滑筋細胞を始め、全身の臓器(特に皮膚、眼、神経系、腎臓、心臓など)へ進行性に蓄積することで様々な症状を呈します。
本症はX染色体劣性遺伝性疾患で、典型的Fabry病男性患者(ホモ接合体)では、α-gal A活性はほぼ完全欠損を示し、幼少時から四肢末端痛、皮膚の被角血管腫、低汗症、角膜混濁などの症状が出現し、加齢と共に腎臓・脳・心臓の障害を生じて死亡します。ヘテロ接合体の女性では、2本あるⅩ染色体の一方がlyonizationにより胎生期にランダムに不活化されるため、個々の細胞でのα-gal A活性は正常か欠損かのいずれかとなります。このため、ヘテロ接合体の女性のα-gal A活性は著明な低値を示すものから正常域のものにまで及び、臨床症状も無症状のものから重症のものまで様々です。
これに対し最近、典型的な症状を欠き、病変が心臓に限局している非典型的Fabry病として「心Fabry病」と腎臓の症状にほぼ限局する「腎fabry病」が報告されています。心Fabry病男性患者のα-gal A活性はわずかながらも残存しており、心筋細胞にスフィンゴ糖脂質が過剰蓄積して心臓機能障害が生じます。心Fabry病で、臓器障害がなぜ心臓に限局しているのかはまだ明らかではありません。

病因

α-gal A遺伝子の全長は約12、000塩基対であり、7個のエクソンから構成されています。典型的Fabry病では、これまでに100を超える多様なミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、重複、スプライシング変異が報告されています。
心Fabry病では9種類(Ala20Pro、Glu66Gln、Ile92The、Phel13Leu、Asn215Ser、Gln279Glu、Met296Ile、Met296Val、Arg301Glu)のミスセンス変異が報告されています。更に、エクソン内及びイントロン-エクソン接合部に異常を認めないにもかかわらず、メッセンジャーRNAの低下を認めた症例も報告されています。

疫学

典型的Fabry病は稀な疾患と考えられており、欧米では40000~117000人に1人と推測されています。日本での頻度は不明です。
一方、心Fabry病は鹿児島県では左室肥大を有する男性患者の約3%に存在するという報告があります。また、海外においては、臨床的に肥大型心筋症と診断された男性患者さんのうち、英国人で4%、イタリア人で3%、スペイン人では0.9%が心Fabry病であったことが報告されています。さらに、最近行われた台湾での新生児に対するスクリーニングの結果、新生男児の1250人~1370人に1人がFabry病であり、その80%以上に心Fabry病で報告された遺伝子異常を認めることが明らかとなりました。これらの結果から、心Fabry病は稀ではなく、心臓肥大の患者さんの中にこれまで考えられていたよりも高い頻度で存在すると推測されています。

症状

典型的Fabry病の男性患者では、全身の症状を認めます。幼少時より四肢末端の痛みの発作(四肢末端痛)や、皮膚、特に腹部や外陰部に赤暗紫色の皮疹(被角血管腫)が出現します。汗をかきにくい症状(低汗症)や角膜の混濁も出現します。加齢に伴い、尿蛋白などの腎臓機能障害が出現して、次第に腎不全の状態になります。また、心臓肥大、不整脈などの心臓機能障害や、一過性脳虚血発作、脳梗塞、特に多発性小梗塞などの脳血管障害も出現します。腹痛・嘔気・嘔吐・下痢・便秘などの消化器症状、立ちくらみなどの自律神経障害、人格変化・うつ症状などの精神症状、難聴などの聴覚障害も多く認めます。
一方、心Fabry病では、中年頃までは症状を認めないことが多いのですが、それ以降に心臓肥大を認めるようになります。最初は、心電図や心エコー図検査で心臓肥大に伴う異常が見つかりますが、自覚症状はないことがほとんどです。心臓肥大が進行してくると、労作時の息切れなどの心不全の症状が生じるようになり、次第に増悪します。不整脈も出現するようになり、それを動悸として感じることがあります、また、脈が遅くなる徐脈性不整脈が出現し、心臓ペースメーカーが必要となることがあります。心Fabry病は典型的ファブリー病とは異なり、心臓肥大が主症状で全身症状を認めないために、多くはFabry病と診断されずに、原因不明の心肥大、すなわち肥大型心筋症と診断されています。
女性のFabry病では、男性患者に比べて症状が軽いか症状がない例から、男性患者と同様に重篤な症状を示す例まで様々です。

診断

ヘミ接合の男性の場合は、白血球、血漿、培養皮膚線維芽細胞中のαガラクトシダーゼ活性を測定してその低下(正常の10%以下の活性)を証明できるので、診断は容易です。尿中のグロボトリアオシルセラミドを定性・定量することによっても診断可能です。女性のヘテロ接合の診断は難しいことが多く、酵素活性は正常域にある症例も多いです。尿中のグロボトリアオシルセラミド定性・定量は診断の一助となりますが、それだけで診断は出来ないので臨床症状と合わせて診断することになります。最終的には遺伝子診断で行ないますが、男性患者の母親だからといって、ヘテロ接合とは限りません。

治療

本症の原因は、α-gal A遺伝子異常により生ずるα-gal A酵素活性の欠損又は低下ですが、この酵素活性異常を改善させる根本的治療法は、2001年までは確立されていませんでした。このため、従来行われている治療は、基本的にすべて対症療法でした。
例えば、典型的ファブリー病で認める強い四肢末端の痛みに対しては、カルバマゼピンという薬が有効です。また、腎臓機能障害が進行して腎不全になった場合には、血液透析を行いますが、腎臓移植を行うこともあります。心ファブリー病では、病期の進行とともに心臓機能が低下し、うっ血性心不全が出現します。これに対しては、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、β遮断薬、利尿薬、強心薬などの投与を中心とした既存の心不全治療が行われています。心臓機能低下に伴い心室性期外収縮、特に心室頻拍が出現し抗不整脈薬の投与が必要となる場合や、洞機能不全や完全房室ブロックなどの徐脈性不整脈の出現により心臓ペースメーカーの植え込みが必要となる場合もあります。
近年、米国において遺伝子組み換え技術を用いてα-ガラクトシダーゼ A酵素蛋白が作製され、ファブリー病に対する根本的治療法のひとつと考えられる酵素補充療法(enzyme replacement therapy;ERT)が可能となりました。この治療法は、α-ガラクトシダーゼ A酵素蛋白を2週間に1回点滴で静脈から投与するもので、欧州では2001年から、米国では2003年から、本邦では2004年から一般臨床での使用(製品名ファブラザイムとリプレガル)が開始されています。この酵素補充療法の効果については、各臓器に不可逆的な変化が生じる以前の早期に治療を開始することにより、臓器障害、症状の改善や、臓器障害、症状の増悪を抑制することが可能であることがこれまでに報告されています。
さらに、この酵素補充療法の他に、シャペロン療法や遺伝子治療の研究も進行中です。

予後

臨床経過及び予後は、臨床病型と性により異なる。典型的Fabry病男性患者では、幼少時より四肢末端痛、被角血管腫、低汗症、角膜混濁などの症状を認め、徐々に進行して腎臓、脳、心臓の障害を生じ、通常30~40歳代で死亡します。また、50%の患者が43歳までに腎機能障害を呈し、53歳までに末期腎不全となるとの報告もあります。
これに対し心Fabry病男性患者では、通常40歳以降の中高年で発症し、心肥大を主症状とし進行性に増悪して、多くは60歳以降に心不全や不整脈により死亡します。

Fabry病は国の難病(特定疾患)に指定され、「特定疾患治療研究事業」以下、医療費助成制度を利用することができます。保険診療では治療費の自己負担分は1~3割負担ですが、医療費助成制度ではその自己負担分の一部を国と都道府県が公費負担として助成します。
疾患ごとに承認基準があり、主治医の診断に基づき住所地を管轄する保健所に申請し、承認されると「特定疾患医療受給者証」が交付されます。
申請については各地域によって異なりますので、必ず住所地を管轄する保健所にご相談下さい。

執筆:2011.3

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