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Wiskott-Aldrich syndrome

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

本症候群(WAS)は、X染色体上のWAS遺伝子異常に起因する、血小板減少、難治性湿疹、易感染性を三主徴とする先天性免疫不全症候群です。出生時から出血が、その後は感染、そして年長児や成人では血液系悪性疾患などで死亡する頻度が極めて高い予後不良の疾患です。遺伝形式はX染色性劣性遺伝で、ほとんど男性例ですが、稀に女性例の報告もあります。頻度は1-10人/100万人と稀です。
現在、前記三主徴のすべてを備える古典的WAS、WASの軽症型と考えられ免疫不全を伴わないX連鎖性血小板減少症(X-linked thrombocytopenia:XLT)、ならびに稀なX連鎖性重症好中球減少症(X-linked severe congenital neutropenia:XLN)は、Xp11.22-11.23に座位するWAS遺伝子の異常に起因することが知られています。WAS遺伝子がコードする蛋白Wiskott-Aldrich syndrome protein (WASP)は血球細胞に発現し、他の細胞には認められません。さらに、WASPは細胞質内に局在して、細胞の分裂や運動、形態の保持・変化に重要な役割を果たすアクチン細胞骨格の調節やシグナリングに関与していると考えられていますが、詳細な病態は不明です(アクチンフィラメントの形成を制御するCdc42、Rac GTPasesや細胞骨格に関与するArp2/3などとの相互作用も研究されています)。一方、WASP 遺伝子の異常はほぼ共通して血小板数および血小板容積の低下をもたらしますが、XLT患者でWASP発現は低下しながらも少なからず残存する例があるのに対して、免疫不全を確実に伴う古典的WASではWASPがほぼ欠損しています。こうした知見はWASPの量的あるいは質的異常が疾患の表現型に密接に関連していることを示唆しています。

臨床症状

1)血小板減少

全例で認められ、しばしば出生直後より認められ、点状出血・紫斑・血便が多く、初発症状の多くがこれらの症状です。感染症発症時には、血小板減少症は進行して重症化し、脾腫を伴うこともあります。頭蓋内出血をきたせば予後は不良です。

2)難治性湿疹

軽症から難知性の症例まで様々で、多くは生後数ヶ月より発症し、年齢と共に進行します。 アトピー性皮膚炎様ですが、気管支喘息などのほかのアレルギー性疾患を合併することは通常ありません。湿疹の発症機序についてはリンパ球機能異常に起因すると考えられていますが詳細はまだ明らかではありません。

3)易感染性

免疫機能不全(抗体産生低下、Tリンパ球機能低下など)のために、乳児期より細菌感染症、ウイルス感染症や真菌感染症を繰り返します。
細菌感染症ではその起因菌として肺炎球菌、髄膜炎菌やインフルエンザ菌などのリポ多糖体を有する細菌が主体で、部位では肺炎、副鼻腔炎、中耳炎、皮膚感染症、腸炎が多く、時に敗血症、髄膜炎も発症します。
ウイルス感染症ではヘルペス属ウイルスが多く、部位としては結膜炎・角膜炎を繰り返すことが多く、カリニ肺炎合併の報告例もあります。

4)悪性腫瘍の合併

悪性腫瘍の合併が多いのが特徴の1つで、学童期~青年期まで経過した時期に多く発症します。悪性リンパ腫・白血病の発症が多く、多発性骨髄腫や脳腫瘍も報告されており、その他自己免疫性溶血性貧血の合併が5~10%の症例でみられます。自己免疫性溶血性貧血などの自己免疫疾患の合併例では悪性疾患の頻度が有意に高くなることが報告されています。WASの軽症型で血小板減少症のみを呈するXLTにおいても、年長児において自己免疫疾患やリンパ増殖疾患を発症した例が報告されています。

診断

平均血小板容積低下を伴う血小板減少、繰り返す感染症、難治性湿疹から本症候群を疑いますが、発症時より3徴候すべて揃っている症例は少なく、発症初期には臨床所見のみから診断することは困難です。特に特発性血小板減少性紫斑病(ITP)との早期鑑別に重要です。
血小板減少は全例で認められることから、乳児期に発症する難治性血小板減少症の男児例では本症例の可能性を念頭に置きながら診断を進める必要があります。
WASPに対する単クローン抗体を用いて患者リンパ球および単球を細胞内染色し、フローサイトメトリーにより解析する、簡便かつ迅速な診断法が確立され臨床応用されています。WASP発現の低下あるいは欠如している症例に対してWAS遺伝子の解析を行い、変異を同定して診断を確定します。

治療

確定診断後、可及的早期の同種造血幹細胞移植術を行い、重症例ではドナーを確保し早期に移植を行う必要があります。間欠的な血小板減少のみを示すintermittent XLTは症例が極めて少なく長期予後が不明のため、造血幹細胞移植適応の是非について現段階では判断できません。本邦において57人のWAS患者に行われた造血幹細胞移植(1985~2004)では、全体としての成績は5年生存率73.7%、5年非機能不全生存率は65.7%であり、HLA一致非血縁ドナーの成績がHLA一致血縁ドナーの成績に匹敵していた。前処置ではbusulfanを主体とした方法で成績がよく、生存に関する不良因子はHLA不一致血縁ドナー、移植時年齢が5歳以上であった。 移植までの間は、感染症、血小板減少、湿疹に対して対症的な治療(抗菌対策、血小板輸血、インムノグロブリン、外用薬塗布など)を行います。
摘脾により血小板は増加しますが、易感染を助長する可能性や血小板輸血依存症となりやすいため、易感染状態が軽度である学童期以後の症例に考慮されます。

予後

頭蓋内出血などの重症出血、重症感染症、悪性腫瘍合併例では予後不良です。

注意事項

血小板減少状態でのアスピリンやNSAIDsの投与は血小板機能を低下させ、出血症状の悪化を招く恐れがあり、禁忌です。また、出血傾向があるので、ベッドからの転落や転倒に注意し、必要であれば頭部出血を予防するために、ヘルメット着用が望ましい。消化管出血による血便の有無を確認することも必要です。湿疹からの二次感染予防にも注意が必要で、皮膚の清潔を保つことが肝要です。

※本症候群は厚生労働省特定疾患「原発性免疫不全症候群」の6.4%を占めます。このため、難病患者の医療費の助成制度を受けることができます。保険診療の自己負担分の一部を国と都道府県が公費負担として助成しています。疾患毎に認定基準があり、主治医の診断に基づき都道府県に申請し認定されると、「特定疾患医療受給者証」が交付されます。制度の概要、手続き方法を参照し、申請については最寄りの保健所にご相談ください。

執筆:2011.4