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エーラス・ダンロス症候群

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

品川シーサイド皮膚・形成外科クリニック > エーラス・ダンロス症候群

エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome;EDS)

本症は、皮膚や組織を形成するコラーゲン等、結合組織成分の先天性代謝異常により、皮膚の異常な伸展性・脆弱性、血管脆弱性に伴う易出血性、靱帯や関節の異常な可動性亢進等が見られる、多様な症状を呈する疾患です。
病型は、主とする症状の特徴から6つに大別されます。病型によって症状が様々で、しばしば病型が重なることもあります。EDSの診断および病型の確定は、臨床的評価に基づき,大基準と小基準を用いて各病型を鑑別していくため、経験の豊富な医師による診察が最も重要です。また、組織脆弱性による大血管破裂、臓器破裂、その他の合併症などで致死性の急変が生じうる為、その後の定期検診や救急医療体制の整備も必要不可欠です。 生化学的検査や遺伝子検査によって確認を行うことができる病型もあります。また、同じ型であっても症状や、その程度・出方が異なるなど、非常に個人差の大きい疾患です。 現在のところ、対症療法以外に疾患の根本的治療法はありません。発症率は、数万~数百万人に1人の割合と考えられていましたが、最近の報告では5000人に1人の割合と言われています。

病型と症状

  1. 古典型(Classical type)
    症状:EDSの病型の中で二番目に多いとされている。
    a)皮膚:皮膚の感触はビロード状で、ぶつけたり擦れたり等の衝撃で簡単に裂けやすく、また裂けた後の傷も治りにくい(脆弱性)。治癒後でも、シガレットペーパー様と呼ばれる瘢痕(細かい皺の集まった傷痕)を形成しやすい。皮膚をつまむと数cmも伸び、離すと元に戻る(過伸展)。
    b)関節:大・小関節の可動域が広い(過可動)。
    c)その他:
    出血しやすい(皮膚の下の青黒い出血斑や歯肉出血など)。胎盤の早期剥離、前期破水による早産になりやすい。
    心臓:僧帽弁逸脱がみられることがある。稀だが、報告例があるものとして憩室(膀胱や消化管、器官壁の一部が内圧等により小さな袋状に突起する)、体が疲れやすい(易疲労性)。
    原因:5型コラーゲン遺伝子(COL5A1、COL5A2)または1型コラーゲン遺伝子(COL1A1)の変化。
    遺伝形式:常染色体優性遺伝。
  2. 関節可動亢進型(Hypermobility type)
    症状:EDSの病型の中で一番患者数が多いとされている。
    a)関節:全身の関節(肩、膝蓋骨、顎など)が緩く(過可動)、脱臼しやすい。慢性的な関節・四肢痛を伴う。
    b)皮膚:古典型と同様の症状だが、過伸展は軽度で、また裂傷や瘢痕も稀である。
    c)その他:
    僧帽弁逸脱、大動脈基部の拡張がみられることがある。自律神経症状(体温調節機能低下、立ちくらみなど)や消化器症状(過敏性大腸など)などがみられることが多い。
    原因:3型コラーゲン遺伝子(COL3A1)またはTenascin-X(TNXB) の変化。
    遺伝形式:常染色体優性遺伝あるいは劣性遺伝とされている。
  3. 血管型(Vascular type)
    症状:特にこの病型は症状が重篤になりやすい。20歳までに1/4の患者が,40歳までに80%の患者が何らかの明らかな医学的問題を経験する.平均死亡時年齢は48歳である。
    a)動脈破裂:胸腹部・頭・足などの動脈が脆弱である。動脈瘤、動脈解離が先行することもある。頚動脈海綿状動静脈瘻が生じることもある。
    内臓破裂:消化管(S状結腸が多い)破裂を起こしやすい。妊娠中子宮破裂を起こすこともある。
    b)皮膚:薄く、静脈が透けて見える。過伸展性はごく軽度である。皮下出血を反復しやすい。
    c)関節:過可動性は軽度(指などの小さい関節が主)。先天性内反足や先天性股関節脱臼、慢性的な関節亜脱臼または脱臼が見られることもある。
    d)その他:特徴的顔貌(薄い口唇や人中,小さい顎,細い鼻,大きな眼)、末端早老症(四肢末端,特に手が老人様の外観を呈する)、気胸、腱や筋肉の断裂、歯肉後退を生じることもある。 原因:Ⅲ型コラーゲン(COL3A1)遺伝子の変化。
    遺伝形式:常染色体優性遺伝。
  4. 後側彎型(Kyphoscoliosis type)
    症状:
    a)皮膚:Ⅰ型と同様で、症状は中程度。
    b)関節:過可動が見られる。新生児期または生後一年以内に進行性脊椎後側彎がみられる。
    c)その他:
    眼症状:角膜異常、強度の近視、網膜はく離、稀に眼球破裂。眼球の強膜はもろい。
    動脈:破裂することがある。重度の筋緊張低下。骨粗鬆症。
    原因:コラーゲン修飾酵素(できたままの"生"のコラーゲンを"使える"成熟したコラーゲンに仕上げる酵素)であるLysyl hydroxylase (procollagen-lysine 1, 2-oxoglutarate 5-dioxygenase1;PLOD1)の変化。
    遺伝形式:常染色体劣性遺伝。極めて稀。
  5. 多発性関節弛緩型(Arthrochalasis type)
    症状:
    a)皮膚:過伸展性があり皮下出血ができやすい。
    b)関節:全身性の関節過可動性が強く、脱臼を繰り返す。先天性股関節脱臼。脊椎後側彎。軽度の骨粗鬆症。
    c)その他:筋緊張低下。
    原因:Ⅰ型コラーゲン遺伝子(COL1A1、COL1A2)の変化。
    遺伝形式:常染色体優性遺伝。極めて稀。
  6. 皮膚弛緩型(Dermatosparaxis type)
    症状:
    a)膚:柔らかく緩い。余剰皮膚が 弛んだようになる。皮下出血しやすい。
    b)関節:過可動性。骨粗鬆症。
    c)その他:胎児にこの病気があると、胎盤の早期剥離、前期破水による早産になりやすい。鼠径・臍ヘルニアが見られることもある。
    原因:コラーゲン修飾酵素である ADAM metallopeptidase with thrombospondin type 1 motif, 2 (ADMTS2) の変化。
    遺伝形式:常染色体劣性遺伝。極めて稀。

鑑別診断

Marfan症候群、先天性弛緩性皮膚、Menkes病との鑑別が必要になることがあります。

治療

現在のところ、根本的な治療法は無く、対症療法を行います。症状によって、整形外科、循環器科、皮膚科、小児科などに複数の診療科で連携を取りながら、総合的な健診と治療を行うことが大切です。特に病型によっては生命を脅かす重篤な合併症状を生じることがあるので、救急時対策の計画を立てておくことも重要です。
また、避けることの出来ない手術をする場合は、創傷治癒を阻害しないように止血と縫合を注意深く行うよう配慮します。妊娠および分娩中の産科的管理は必須です。
予防として、関節の安定性を確保し、関節の過可動を生じるような行動を極力回避します。また、外傷は最小限に抑えるために、防護的な衣服などの装用が有用である。患者によってはビタミンC大量内服療法で、創傷治癒を改善できることもあります。
家族計画に関する相談は、個別に遺伝カウンセリングで対応してもらう必要があります。また、本症に罹患している小児も、本疾患に関して十分理解させて症状悪化の予防に努める指導が必要です。
小児では、小児慢性特定疾患の申請ができます。成人の特定疾患(いわゆる難病)には指定されていませんが、障害の程度により身体障害者手帳などの申請ができることがあります。

予後

病型により予後が異なり、同じ型であっても症状やその程度が異なることもあり、さらに合併症の頻度も個人差があるため、正常人と同じ程度の寿命から血管破裂などによる合併症で短命なものまで、幅広いです。

執筆:2011.3