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貧富と寿命

其の1

平等・非平等主義社会を問わず、受けた教育レベルの違いによる死亡率の差が拡大していると、欧米各国で相次いで報告がなされている。最近ノルウェーで行われた調査(1960-2000まで)でも、低学歴群の死亡率と高学歴群の死亡率差(傾斜指数)は、40年間で男性は2倍に(105%増)、女性は3分の1の増加(32%増)をしていたと報告されている(Strand BH et al.: BMJ. 2010 Feb 23;340:c654)。男性における格差拡大は、主に「心血管疾患」「肺癌」「慢性下気道疾患」が原因だった。女性の格差拡大の原因は、主に「肺癌」「慢性下気道疾患」にあった。また女性では男性と異なり、心血管系に起因する死亡率の格差は縮まっていた。一方で、喫煙が関連していると思われる慢性下気道疾患が格差拡大に寄与していた。これらの結果を、著者は教育レベルの違いによると思われる「喫煙」という生活習慣の違いに問題があると考えている。この論文は視点を変えて「教育レベルの違い」を演繹して「高学歴者は富裕層になりやすい」と考えると、禁煙をしていない富裕層はより死亡率が低下し、喫煙している貧困者は死亡率があまり改善していないと捉えることもできる。

其の2

一般的には、現在のところ寿命延長する確実な方法が無いため、平均寿命にさしたる格差は無いと考えられている。しかし、上述のような生活習慣のなかの悪因子を排除・改善して、尚且つ個人の遺伝子情報を解析して老化や癌が確実に防止あるいは遅延させる手段が確立されたとしたら、富裕層は寿命延長に対して金をかけてその恩恵を享受し、貧困層はそれに対してできないために寿命格差は拡大していくことが予測される。社会はこの不公平に対してどのように対処していくことができるかどうか、また、人道的にあらゆるヒトへ老化を遅らせる検査や治療を施すとなると、国家の財政破綻が生じかねないなど問題は多い。また、個人の遺伝子情報の扱いが最重要機密になるので、この漏洩が無いシステム作りも必要になる。

其の3

翻って、地球的規模では先進国では長寿社会を享受できても、発展途上国では栄養状態や衛生環境を克服できない限り寿命格差は依然として大きく、また、地球全体での人口増加(特に高齢人口の増加)とそれに伴うヒトが利用する資源の枯渇が問題になり、発展途上国と先進国との軋轢が深刻になるかもしれない。従って、予想される長寿社会に対して、現行の社会システムの抜本的改革を早急に導入しはじめなければならない時期も近い。

其の4

仮に寿命が20年延びたとした場合、一線での社会活動は80歳頃まで続き、長寿者が社会権力を掌握したままになり、老害を撒き散らす危険性がある。そのためには、若い活力の有る者がその時代に合致した緩やかな社会変革・刷新できるような社会システムを構築する必要があるだろう。また、同じ職を50-60年以上も続けるのも飽きて退屈になるので、適度な転職が容易にできるような社会システムも必要になるかもしれない。だが、個人的には長い人生よりも短い人生で充実感を持って駆け抜けるのが本望である。

其の5

閑話休題。最近のオリンピックを見ていると、長寿国である日本の選手は外国選手よりやや高年齢で、しかも何度も出場している傾向があるように見える。経験が重要で体力はさほど必要の無い特殊なスポーツは別にして、新しい世代の若いアスリートが世界記録をたたき出す時代に戻ってほしいと思うのは私だけなのか・・・。