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サーチュインを活性化するレスベラトロール

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サーチュインを活性化するレスベラトロール(Resveratrol)

「食事制限(カロリー制限)による老化遅延」の項目でも述べたように、哺乳類では食事制限をすると、サーチュイン(SIRT1)の遺伝子産物が増加して、抗老化作用を示すことが明らかになっている。このSIRT1を活性化する物質を開発することができれば、老化遅延・長寿薬につながる可能性がある。
レスベラトロールは、既に健康維持に効果があり、抗酸化作用も有することが知られていた。この物質がサーチュインを介して、酵母や線虫、ある種の魚の寿命を延長することが報告されてから、俄然脚光を浴びることになった。そこで、哺乳類のマウスを用いてレスベラトロールを肥満マウスに大量に投与したところ,肥満にもかかわらず、グルコースとインスリンの血中濃度がさほど上昇せず,肝臓の大きさが正常に保たれ,寿命が延びることが認められた。また、中齢よりも高齢のマウスの方がレスベラトロールの寿命延長効果があることも確認された。
しかし、人間ではどの程度効果があるかどうかは不明であり、最適な摂取量に関してもまだ明らかではない。実験に使用した投与量を人間に換算してみると1.7g/日となり、人間の代謝率を考慮しても少なくとも数百mg/日必要となるため、サプリメントや食物からレスベラトロールを全摂取することは現実的ではないと思われる。
このように、現時点では大量のレスベラトロールを内服することは非現実的なので、高濃度のレスベラトロールを皮膚に塗布してサーチュインを局所的に活性化させることも考案されている。しかし、レスベラトロールは抗酸化作用や抗炎症作用を持つとの報告もある一方で、レスベラトロールを添加した培養表皮細胞を紫外線照射すると、ある種のDNA変異を起こしやすくなるとの研究結果もある。従って、レスベラトロールの皮膚への効果や局所投与の適量、副作用、外用剤とした場合の安定性や劣化の問題などについて、更なる研究が必要と考えられる。また、サーチュイン自体を含有する外用薬も研究中とされるが、分子量が大きいことや不安定性蛋白であるので、効果があるかどうかは疑問が残る。
尚、レスベラトロール以外にもサーチュインを活性化する物質が模索されているが、未だ研究途上である。
レスベラトロールには以上のようなアンチエイジング作用の他にも、抗癌効果や痴呆予防効果なども動物実験で確認されている。レスベラトロールによる癌細胞抑制効果は、動物実験や試験管内実験による結果では、全身に大量投与しても当初考えられていたよりも限定的な効果しかなく、現在ではレスベラトロールが直接接触できる消化器癌や皮膚癌に対して効果が期待されている。また、レスベラトロール内服で脳の老人斑の出現を抑制し、生じたβアミロイドペプチドの分解を促進することが最近の動物実験で証明されてきており、神経変性疾患治療への応用も期待されている。
レスベラトロールは、落花生・ブドウ・イタドリ・ツルドクダミなどの多数の植物から抽出される。赤ワインは食用の中でも特に多く含まれているが、せいぜい2-7mg/Lである。
レスベラトロールおよびその類縁物質は、健康維持と抗老化作用を有する有望な医薬品になりうるが、ヒトへの適正な摂取量や副作用などに関してもまだ不明点が多く、十分な科学的検証を積み重ねなければならず、現在のところヒトへの適応には慎重を要するものと考えられる。