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エストロゲン補充による閉経女性の皮膚への若返り効果

品川シーサイド皮膚・形成外科クリニック > エストロゲン補充による閉経女性の皮膚への若返り効果

エストロゲンは、皮膚機能(例えば、皮膚の弾力性、皮膚の保湿能、色素沈着、血流など)に影響を与えており、皮膚老化(皮膚の厚さ、保湿能力、しわ、たるみ等)や育毛にも強く関与している。実際、女性は40歳前後から卵巣から産生されるエストロゲンが徐々に減少して月経が乱れ始めてやがて閉経に至ると、皮膚でのエストロゲン受容体の発現が減少し、主にコラーゲンI & IIIが減少して皮膚全体が薄くなり弾性も低下し、皮膚の保湿機能も低下して乾燥気味になり、皮膚全体の変性が進行してしわ・たるみが目立ち、創傷治癒も遅延気味になり、びまん性脱毛も生じてくる。
この時期に更年期症状(のぼせ・ほてり、発汗、肩凝り、頭痛、眩暈、不眠、息切れ、動悸、冷え、イライラ、うつ症状、倦怠感、膣萎縮、尿失禁、骨粗しょう症、高脂血症など)が程度の差があれ多少なりとも出現することが多いが、生活の質が低下してしまうほど症状が強く出る女性もいれば、全く症状無く経過する女性もいる。更年期症状がある閉経女性に対してホルモン補充療法(HRT)をすると、症状が改善すると共に、付随的に上記の皮膚老化(皮膚の厚さ、保湿能力、しわ、たるみ等)も改善することが多いと報告されている。

このように、HRTによる皮膚の若返りが可能かもしれないと考えられるが、HRT短期療法は比較的安全に行えるとしても、HRT長期療法は発癌の可能性や心血管疾患の可能性などを考慮すると適切な治療とは考えにくい。
最近、低用量ホルモン経口HRT(norethindrone acetate 1mg; ethynil estradiol 5-10?g)療法による閉経女性に対する顔面の皮膚老化に対する効果の大規模臨床試験が行われたが、その結果は低用量ホルモンによる皮膚老化改善の効果は無かったと報告されている。
しかし、低容量エストロゲンは1年間投与で判定されているため、効果が出るためにはもう少し時間がかかるかもしれないし、あるいはもう少し高容量のエストロゲン投与が必要だったのかもしれない。また、エストロゲンには多種類存在するため、どれが人の皮膚の若返りに最適なのかもまだ明らかではない。加えて、HRTに通常併用されるプロゲステロンにも多種類あるため、その選択薬によっては結果に差が生じる可能性もある。
一方、露光部位である顔面皮膚は光老化が強く症状に出てくるので、エストロゲンによる皮膚への効果を減殺してしまっている可能性もある。非露光部の皮膚での効果も確認する必要があると思われる。この他にも、閉経早期にHRTを開始した方がより治療効果が高いかもしれないし、被験者の生活習慣(例えば喫煙、日光暴露する時間が長いなど)も影響を与えうる。さらに、治療前の閉経女性のエストロゲン量を測定するべきである。

上記以外にも多数の報告があるが、まだHRTによる皮膚若返り効果に関する研究は緒についたばかりと考えられるため、これからの系統だった更なる研究が必要であり、高齢化社会で渇望されている皮膚アンチエイジングのブレイクスルーになることが期待される。しかし、現在までのところ積極的に推奨するだけのデータがいまだ不十分と言わざるおえない。
尚、エストロゲン減少による更年期以降の皮膚老化に対しては、HRTによる全身へのホルモン補充よる他臓器への悪影響の危惧を考慮すると、皮膚への局所投与の方がより安全性が高いかもしれない。実際、ホルモンの皮膚局所への塗布で、全身症状や血中ホルモン値の変化無く、皮膚老化を改善したとの報告もある。

これからの課題は、先述したように各種あるエストロゲンの適切な選定と投与方法、副作用を生じずに効果を発揮する最適な濃度、更年期早期から治療し始めたほうが良いかどうか、その投与期間はいつ頃まで可能か、また、皮膚老化を防止するエストロゲン類似効果を持つSERMs (selective estrogen receptor modulators)などの創薬開発などが期待される。

ホルモン補充療法(HRT)

ホルモン補充療法(HRT)は、体内の産生が低下した性ホルモンを薬剤で補給する治療法であり、ホルモン補充療法の目的は、更年期と閉経後の生活の質を向上させることにある。
ホルモン補充療法(HRT)は、主に更年期症状の改善ならびに高脂血症・骨粗鬆症(骨折)の予防)に対して適応され、エストロゲン(E)+プロゲステロン(P)の同時併用が推奨されている。 更年期障害治療のための短期間HRTを行うことは、通常有用性が危険度を上回ると考えられるため、併用療法を行っても差し支えないと考えられる。
しかし長期的(4~5年以上)HRTでは、心血管疾患の相対的危険度が増し、子宮内膜癌の相対的危険性が高くなり、乳癌では相対的危険度が25-40%増すので、年1回は子宮内膜癌・乳癌検診を行う必要がある。また、早期に発見されれば治癒率は高いとされている。
尚、この治療で大腸癌や卵巣癌の予防も期待できるが、その目的のために適応されるべき治療法ではない。
私見だが、近年では高脂血症・骨粗鬆症に対して有効で副作用の少ない薬剤が多数開発されているため、あえて長期間のHRTを行わなければならない症例は少なくなってきていると考えられる。