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痒み

痒みのメカニズム

痒みを大別すると、末梢性と中枢性のものがあります。以下、現在解明されている範囲でのメカニズムを簡単に説明します。

1.末梢性の痒み

表皮-真皮境界部に存在する知覚神経(C線維)の自由神経終末が種々の刺激により活性化されると、脱分極を起こして神経の興奮として脊髄→脊髄視床路→(視床を経由)→大脳皮質に伝達され、痒みとして認識されます。

誘発刺激には、物理的刺激(電気的、機械的、温熱刺激など)とケミカルメディエーターによる化学的刺激があります。後者にはアミン類(ヒスタミン、セロトニン)、プロテイナーゼ(トリプターゼ、キマーゼなど)、ペプチド(サブスタンスP、ブラジキニン、エンドルフィンなど)、サイトカイン(IL-2)などがあります。

通常認められる痒みは末梢性の痒みで、主としてヒスタミンが関与しているため、大部分の痒みは坑ヒスタミン薬により抑制されます。

2.中枢性の痒み

オピオイドペプチド(β‐エンドルフィン、ダイノルフィン、エンケファリンなど)が神経組織や細胞膜上に存在するオピオイドレセプター(μ、κ、d、ノシセプチン)に結合することによって生じる中枢性の痒みがあります。

β-エンドルフィンはμ-レセプターに結合して痒みを誘発しますが、ダイノルフィンはκ-レセプターに結合して痒みを抑制します。β-エンドルフィン/μ-レセプター系がダイノルフィン/κ-レセプター系より優位であれば痒みが誘発され、逆の場合は痒みが抑制されます。

痒みのメカニズムをもう少し詳しく説明すると、痒みはアレルギー性反応に伴うケミカルメディエーター(マスト細胞、神経ペプチド、リンパ球とサイトカイン、好酸球、オピオイドペプチドなど)によるものと、皮膚バリア機能障害(ドライスキンなど)を伴う痒み閾値の低下によるものが密接に関連して生じていると考えられます。

A. 炎症性メディエーター

a. マスト細胞

痒みにおけるマスト細胞の重要性は良く知られています。マスト細胞の脱顆粒により遊離されたヒスタミンはC線維のH1受容体と結合し、また、プロテアーゼ(トリプターゼやキマーゼなど)は直接痒み受容器を刺激し、この他にもマスト細胞由来のアラキドン酸代謝産物(ロイコトリエンB4、C4など)、血小板活性化因子(PAF)、TNF-α、インターロイキン(IL)なども痒みを誘起します。

b. 神経ペプチド

サブスタンスP(SP)を含め、種々の神経ペプチドが痒みに関与していると考えられています。特にSPはマスト細胞を活性化・脱顆粒させる機序(マスト細胞依存性経路)とSPの主要受容体であるNK-1R(neurokinin-1 receptor)を介する直接作用の両者が関与していると考えられています。

c. リンパ球とサイトカイン

リンパ球が種々のサイトカイン(IL-2など)を分泌して痒みを誘発しています。

d. 好酸球

アトピー性皮膚炎では好酸球のIgE受容体の発現が亢進しているため、結合しているIgEで抗原を捕捉することで活性化して脱顆粒し、痒みを誘発していると考えられています。

e. オピオイドペプチド

アトピー性皮膚炎ではβ-エンドルフィンの血中レベルが高いと指摘されています。

B. 皮膚バリア機能障害(ドライスキン)

ドライスキンとは、皮膚のバリア機能の低下、角層の水分保持機能の低下、水分蒸散量の増加などにより、角質中の水分含有量が低下した潤いのない皮膚の状態です。特に、角層の水分保持には、皮脂膜(皮脂腺や汗腺の合成・分泌により形成される)、角質細胞間脂質(セラミドなど)、天然保湿因子(フィラグリン分解産物のアミノ酸など)が関与していますが、これらの因子の欠乏に加えて、冬の湿度低下も悪循環を形成します。

一方、ドライスキンでは角化細胞から産生される神経成長因子(NGF)が表皮内への神経線維の伸展を促進するために、C線維が表皮の角層直下にまで侵入しています。皮膚本来のバリア機能が破壊されているドライスキンの角層を介して、物理的・化学的・機械的刺激によって、ケミカルメディエーターを介さずに直接C線維の活動電位が生じて、その興奮が中枢に伝達されて痒みが生じます。 以上のように、ドライスキンになると、痒み閾値の低下、皮膚の被刺激性の亢進、抗原の侵入によるアレルギー性炎症が誘起されやすくなります。

掻破による痒みの悪循環

痒みに対する掻破は皮膚のバリア機構の破壊を生じ、その結果、皮膚角化細胞から炎症性サイトカイン(IL-2、TNF-αなど)やNGFなどの遊離が亢進して痒みを増幅します。また、掻破による物理的刺激はC線維の一部を逆行性に刺激してSPや神経ペプチドを放出させ、直接的あるいは間接的にマスト細胞を脱顆粒させてヒスタミンやその他のメディエーターおよびサイトカインなどを遊離させるようになります。これにより、血管拡張や炎症を誘起させて、さらに浸潤細胞や炎症細胞から起痒物質が放出されて悪循環を生じることになります。