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ランゲルハンス細胞組織球症

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ランゲルハンス細胞組織球症 (Langerhans cell histiocytosis; LCH)

本症は、免疫表現型的および機能的に未熟な、骨髄由来と想定されるLCH細胞が皮膚、骨、リンパ節、肺、肝臓、脾臓、中枢神経系などの臓器にモノクローナルに浸潤増殖する稀な非遺伝性疾患です。病変内には、同時に好酸球、マクロファージ、リンパ球、正常組織球および時に多核巨細胞も認められます。
以前は、Hand-Schüller-Christian病、Letterer-Siwe病、eosinophilic granuloma、histiocytosis Xと呼称されることもありましたが、現在ではこの名称に統一されています。 病型は単臓器単病変(Single-System Single-Site, SS)、単臓器多病変(Single-System Multi-site, SM)、多臓器多病変(Multi-System Multi-Site, MM)に分類されます。

発症頻度

日本人では100万人に2-10人の割合で発症するといわれており、70%が10才以下で発症しますが、成人でも発症します。男女比は1.2です。

病因

LCH細胞のモノクローナルな増殖性疾患ですが、その原因は不明です。本症のLCH細胞は表皮のランゲルハンス細胞(LC細胞)に酷似しており、電子顕微鏡検査では、両者とも細胞内に特徴的なバーベック顆粒を有します。しかし、LCH細胞は、皮膚のLC細胞ではなく骨髄樹状細胞の遺伝子発現プロファイルを有して、形態学的且つ機能的にも異なることが証明されています。また、LCH細胞のクローン性増殖が悪性転換によって生じているか、免疫学的異常の結果であるかについては、明確な結論に至っていません。最近、BRAF遺伝子の活性化突然変異の存在が見出され、脚光を浴びています。

症状

Single Systemの場合は骨病変が多く、Multi-Systemでは皮膚と骨の頻度が高く、肝臓、リンパ節、脾臓、歯肉、耳、肺、中枢神経(眼、脳)などにも病変がみられます。また、再発を繰り返す場合もありますが、治療をしないで自然治癒することもあります。

  • 皮膚:脂漏性皮膚炎、汗疹様湿疹、皮下出血斑などが見られることがあります。
  • 骨:骨病変(腫瘤触知、骨痛、骨融解、病的骨折)は頭蓋骨が最も多く、上肢の長管骨、肋骨、骨盤、脊椎骨などにもみられる事があります。
  • 消化器:腹痛・黄疸・吐き気・下痢・食道からの出血・体重減少がみられる事があります。
  • 肺:嚢胞病変から多呼吸、咳、血痰がみられることがあります。
  • 中枢神経:精神的不調・尿崩症・成長ホルモン分泌不全性低身長、頭痛・眩暈・発作・眼球突出・嚥下障害・吐気等を認める事があります。
  • 口腔:自然抜歯・出血を伴う歯肉腫脹・頚部リンパ節腫脹を認める事があります。
  • 耳:耳管の炎症症状、中耳炎、外耳炎や腫瘤が出現する事があります。
  • 眼:視力障害や眼球の突出を認める事があります。

検査・診断

血液検査は診断確定にはなりませんが、CRP、soluble IL-2 receptorの上昇を認め、病勢を反映します。骨病変では、単純X線検査では打ち抜き像や骨融解像を、骨シンチでは骨病変部への集積像を認めます。骨髄穿刺で骨髄浸潤の有無を確認します。MRIやCT、Gaシンチで全身への浸潤臓器の検索を行います。
確定診断は病変部位の生検を行い、病理診断で確定します。ランゲルハンス細胞は免疫染色でCD1a、CD4、CD14、CD207、S100が陽性で、電子顕微鏡ではBirbeck顆粒を認めます。

治療

病変が単発か多発か、あるいは多臓器に浸潤しているかによって治療方法が異なります。単一臓器型で1ヶ所にしか病変がない場合には自然治癒することもあり、治療をせず様子を見ることもあります。一方、多臓器型の場合は後遺症あるいは生命の危険があることもあるため、化学療法などで適切な治療が行われます。
以下、病型別に治療法を示します。

単一臓器型の場合

骨の1ヶ所の病変:手や足の骨の場合、自然によくなることも多く、生検をした時に病変部の骨掻爬または副腎皮質ホルモン局所注入などの治療を行います。
頭蓋・顔面骨の場合には、のちに脳病変がでてくる率が高くなると考えられているため、化学療法が行われることがあります。
骨の複数の病変:後遺症を少なくするために、化学療法が行われます。
皮膚病変:自然によくなることも多い一方、多臓器型に進行することもあります。ステロイド外用で注意深く経過観察するか、または化学療法を行います。
肺病変:小児の場合、肺浸潤が進行することが多いため、化学療法が必要です。成人ではでは、禁煙のみで症状が消失することもあります。徐々に呼吸機能障害が進行する場合には、ステロイド剤による治療が行われることがあります。

多臓器型の場合

cytosine arabinoside(Ara-C)/vincristine(VCR)/predonisolone(PSL)を6週間、その後Ara-C/VCR/PSLとmethotrexate(MTX)/PSLを交互に用いる維持療法を6ヵ月、さらにvinblastine(VBL)/PSL/MTX/6-mercaptopurine(6MP)による維持療法を4-5ヵ月行います。
化学療法の効果がなく、難治症例に対しては、同種造血幹細胞移植(SCT)が試みられています。小児再発LCHに対して、クラドリビン(2-CDA)や破骨細胞を抑制するビスフォスフォネートなどによる治療が試みられています。また、放射線治療は、通常は行われなくなりました。
現在はJapan LCH study group (JLSG)-02の新しいプロトコールで、寛解導入率の向上と再発率の低下をめざして治療が進行中です。

予後

JLSG-96の結果から、SM型の寛解率は97%、再発率30%、4年生存率100%、MM型の寛解率51%、再発率22%、4年生存率97.5%でした。
非寛解導入例のサルベージ療法の反応性は不良です。また、多臓器型で、肝臓や脾臓・肺・造血器(リスク臓器)に病変がある場合または治療開始後6 週間で治療効果が無い場合、血液検査で可溶性IL-2 受容体が高値の場合などは、死亡率は高くなります。
多臓器型の治療後後遺症として尿崩症、難聴、四肢骨・椎体骨折や変形などの整形外科的合併症、小脳症状などの神経学的後遺症、成長障害、慢性呼吸不全、二次性白血病や甲状腺癌などがあります。

補足

Letterer-Siwe病は、LCH細胞が急激に腫瘍性増殖して全身へ播種する疾患であり、2歳未満の乳幼児にみられ、皮膚発疹、発熱、貧血、血小板減少症、肺浸潤、リンパ節腫脹、肝脾腫などを呈します。骨融解病変はあまりありませんが、乳様突起が浸潤されて耳後部腫脹、中耳炎症状や聴力低下を生じることもあります。痙攣、眩暈、頭痛、運動失調、認知障害を呈することもあります。
治療しないと予後不良で数年以内に死亡することが多いです。男女比はほぼ同数といわれています。治療は早期に多剤併用の化学療法を行い、適応があれば造血幹細胞移植造血幹細胞移植(臍帯血移植、骨髄移植)も行ないます。

Hand-Schüller-Christian病は、典型例では頭蓋骨の欠損(骨の黄色腫様変化)・眼球突出・尿崩症を3主徴とし、LCH細胞の緩徐な腫瘍性増殖を特徴とする慢性進行性全身性疾患で、発症時期の多くは小児期(2-10歳)ですが、中高年以降で発症することもあります。肺と骨で最も頻度が高く浸潤が起こりますが、肝脾腫、リンパ節腫脹、皮膚発疹や結節を呈することもあります。男女比は2 : 1と、男性に多く認められています。

Hashimoto-Pritzker病は、先天性ですが、皮膚病変(無痛性の赤褐色の丘疹、結節や痂皮など)が頭部顔面に生じることが多いですが、色素沈着あるいは色素脱出斑を残して自然治癒します。

Eosinophilic granuloma (好酸性肉芽腫)は、骨格(頭蓋骨、下顎骨、脊椎骨、肋骨、長幹骨など)に通常は孤発性に生じますが、時に多発性に生じ、小児から若い成人(5-15歳)に多く発症し、時に病的骨折も生じます。多発性に生じる場合は、1-2年以内に出現してきます。好酸球性肉芽腫症の20%に瀰漫性肺浸潤を認め、20-40歳代の喫煙者に好発します。本症は良性のため、骨掻爬、ステロイド内服、稀に少量の放射線照射などが行われます。

肺好酸球性肉芽腫は、喫煙が関連する稀な肺疾患です。女性より男性に好発し、30〜50歳の間に症状が現れます。約16%の患者は症状が出ませんが、その他の患者には咳、息切れ、発熱、胸痛、体重減少などがみられます。肺の嚢胞の破裂による気胸が一般的な合併症です。肺が線維化してくると、呼吸不全や肺高血圧で死に至ることもあります。基本的治療は禁煙を行うことで、自然寛解ないしは症状進行の停止が期待できます。症状が改善しないときにはステロイド治療することもありますが、効果は不定です。悪性腫瘍の合併は予後を左右し、悪性リンパ腫・白血病・肺癌の合併頻度が高いとされています。

執筆:2012.11