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掌蹠角化症

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

掌蹠角化症 (palmoplantar keratosis; PPK)

本症は掌蹠皮膚に過角化、異常角化を主症状とする疾患で、遺伝性、非遺伝性の様々な病型があります。以下、カテゴリーに分けて、各々の病型について説明します。

A.随伴症状を伴わないびまん性遺伝性掌蹠角化症
1)Vorner型掌蹠角化症 (epidermolytic PPK、Vorner PPK)

本症は最も頻度が高い病型で、表皮剥離型のびまん性の遺伝性掌蹠角化症であり、常染色体優性遺伝性疾患です。生後数ヵ月頃から発症しますが、3-4歳頃に症状が目立ってきます。
掌蹠のびまん性の厚くて黄色調の過角化を特徴とし、角化は手背や足背に及ぶことはなく(non-transgredientと表現される)、正常部との境界は明瞭で、しばしば帯状の紅斑を呈します。病変皮膚は汚い印象で、凸凹で時に疣贅様の外観を呈します。小児期では、時に水疱形成を伴うことがあります。
病理組織では、角化細胞における表皮剥離と過角化・表皮肥厚および顆粒変性が特徴的ですが、軽微なこともあります。時に表皮内水疱を呈することもあります。
本症は、掌蹠の表皮細胞に発現するケラチン9をコードするKRT9遺伝子の変異が約半数に見られ、変異はhelix initiation peptideとhelix termination peptideに集中して認められます。ケラチン1をコードするKRT1遺伝子変異でも生じますが、症状は軽症になる傾向があります。 水疱性魚鱗癬様紅皮症の中には、水疱形成が乏しく皮疹が掌蹠主体である場合もあり、本症と診断されてしまうことがあるので注意が必要です。

2)Unna-Thost型掌蹠角化症 (Nonepidermolytic PPK; NEPPK 、Unna-Thost PPK)

本症は上記と類似していますが、非表皮剥離型のびまん性の稀な遺伝性掌蹠角化症で、常染色体優性遺伝性です。
生後数カ月から掌蹠の紅斑を認め、次第に角化が進行して3-4歳には明瞭になります。
掌蹠のびまん性の厚くて黄色調の過角化を特徴とし、正常部との境界は明瞭で、しばしば帯状の紅斑を呈します。病変皮膚は平坦且つ滑らかで蝋状の外観を呈します。また、過角化は手背や足背、指背側、膝や肘にも生じることがあります。ナックルパッドや爪肥厚、掌蹠の多汗や手指の絞扼を伴うことがあります。
皮膚糸状菌による二次感染により、病変部位の皮膚浸軟や皮膚剥離が生じることもあります。
病理組織では、正常角化による角質および表皮肥厚を認めますが、顆粒変性を認めません
(臨床的にVorner型掌蹠角化症と鑑別が困難なことも多いですが、病理組織所見でepidermolytic hyperkeratosisが認められないことで区別できます)。
本症の原因遺伝子は不明ですが、KRT1遺伝子変異に呼応するケラチン(II型)に関連があるのではないかと推察されています。

3)Meleda病 (Mal de Meleda)

本症は極めて稀な常染色体劣性遺伝の掌蹠角化症です。生後間もなくから掌蹠の境界明瞭なびまん性角質肥厚がみられ、病変の境界部には紅斑を認めます。次第に掌蹠の過角化は手背や足背にも拡大(transgredientと表現される)し、膝蓋や肘頭も乾癬様病変になることがあります。角化が高度になると、手指や足趾の屈曲拘縮や拘扼をきたすこともあります。多汗、浸軟、悪臭を伴うことも多く、二次感染による細菌あるいは真菌感染症を併発することも多いです。また、口囲および眼瞼の紅斑と角質肥厚、爪の異常、溝状舌、合指症、高口蓋、掌蹠の発毛などを認めることもあります。
病理組織では、正常角化と正常顆粒で、表皮剥離も認めません。
本症の原因はSPURP1遺伝子(8q24.3)の変異です。SPURP1は顆粒層で発現する表皮アセチルコリン受容体への結合蛋白で、現在その欠損と掌蹠の過角化との関連は明確にされていません。

4)長嶋型掌蹠角化症 (Nagashima-type PPK)

本症は常染色体劣性遺伝の掌蹠角化症で、日本では20例以上の報告がある。掌蹠の潮紅と過角化は生後から3歳頃までに出現します。病変は掌蹠を超えて手背や足背、さらに膝蓋や肘頭に認められますが、Melada病に比べて症状は軽度で進行性ではありません。多汗や白癬症を伴うことが多いです。原因遺伝子は不明です。

5)進行性掌蹠角化症 (Progressive PPK、Greither disease、Sybert-type PPK)

本症は稀な常染色体優性遺伝性で、学童期に発症して進行性ですが、思春期には病勢は一定になり、中年以降に軽快します。掌蹠のびまん性角質肥厚に加え、角質増殖病変が手背、足背、アキレス腱部にまで及びます(transgredient)。また、膝、肘、脛部、前腕にも落屑性角化性病変があり、掌蹠の多汗を伴います。偽性拘扼性指趾切断症を生じることがあります。
病理組織では、顆粒細胞層の表皮剥離を認めます。脂肪を蓄積した角質細胞を認めることがあります。
KRT1遺伝子の変異を認めるとの報告もあります。

B.随伴症状を伴うびまん性遺伝性掌蹠角化症
1)指端断節性掌蹠角化症(mutilating PKK、Vohwinkel syndrome)

本症は極めて稀な常染色体優性遺伝で、幼児期に掌蹠のびまん性の角質増殖が出現します。次第に角化病変は顆粒状から蜂巣状となり、蝋様光沢を呈します。また、病変が手背、足背にまで及びます。更に、手指や足趾には環状の過角化による絞扼輪が形成され、指趾の断裂をきたすこともあります。
ヒトデ型の角化症が手指・足趾のナックル部位に生じることも特徴的で、この他にも、脱毛、難聴、痙性対麻痺、筋障害、魚鱗癬様皮膚炎、爪変形を伴うこともあります。
病理組織では、過角化、表皮肥厚、厚くなった顆粒細胞層を認めます。
本症では第13染色体に位置するコネキシン26(connexin 26 、別名Gap junction beta-2 protein)遺伝子の変異で生じることが多いですが、その亜型として第1染色体に位置するロリクリン (Loricrin) 遺伝子の変異によるロリクリン角皮症とも呼ばれるものがあり、その場合は難聴を伴わず魚鱗癬を伴います。

2)Bart-Pumphrey症候群

本症は、掌蹠角化症、ナックルパッド、爪甲白斑、感音性難聴を特徴とする、稀な常染色体優性疾患です。臨床症状は乳幼児期から感音性難聴を生じ、その後、びまん性掌蹠角化症やナックルパッド、爪甲白斑を生じます。
Vohwinkel症候群やKID症候群と共通する点があり、原因もコネキシン26の変異である点で共通している。本症で見つかった変異は新規のミスセンス変異であった。

3)感音性難聴を伴う非表皮剥離型びまん性掌蹠角化症 (Diffuse NEPPK and sensorineural deafness)

本症は稀な非表皮剥離型のびまん性掌蹠角化症で、常染色体優性遺伝形式をとります。
臨床症状は、幼少時頃から緩徐に進行する両側性の高音難聴が先行し、その後、びまん性掌蹠角化症が出現してきます。
原因はコネキシン26の変異によるものや、ミトコンドリア遺伝子serine tRNAの変異により生じるものがあります。

4)指趾硬化症を伴う掌蹠角化症 (PPK with sclerodactyly; Huriez syndrome)

本症は常染色体優性遺伝性で、幼少時に発症します。
臨床症状は、出生時から手足背側部に紅斑と皮膚委縮を認めます。びまん性中等度の皮膚角化が足底よりも手掌が目立ちます。また、指趾硬化症と爪甲変形(低形成、亀裂、匙状爪など)を認めます。20-30歳代に皮疹部に有棘細胞癌を生じることがあります。
病理組織では、表皮肥厚、顆粒層の亢進を認めます。また、病変部にはランゲルハンス細胞が消失しています。
原因遺伝子は染色体4q23に位置します。

5)外胚葉形成異常を伴う掌蹠角化症 (Hidrotic ectodermal dysplasia; Clouston syndrome)

本症は常染色体優性遺伝性の外胚葉形成異常症で、10歳頃から進行性のびまん性の乳頭腫様の掌蹠角化症が生じ、毛髪(頭髪、眉毛、腋毛、恥毛)が疎らで、爪甲のジストロフィーを認めます。また、肥厚して色素沈着の目立つ皮膚が小から大関節に認めます。
感音性難聴、多指症、合指症、ばち指、精神発達遅滞、小人症、羞明、斜視をしばしば合併することがあります。
第13染色体q11に位置するコネキシン30遺伝子 (connexin 30、別名Gap junction beta-6 protein)の変異で生じます。
電子顕微鏡では、毛の角皮層が消失して、毛の繊維配列が無秩序になっています。

6)Olmsted症候群(Mutilating PPK with periorificial keratotic plaques)

本症は極めて稀な遺伝病で、遺伝子形式は確定していないが、時に常染色体優性遺伝性の報告もあります。生後1-2年以内に掌蹠角化を発症して症状が進行し、手指や足趾の屈曲拘縮、絞扼輪や断裂もきたします。また、口・鼻・臍・肛門の周囲に境界明瞭な紅斑や角化性局面が特徴的です。さらに、脱毛、難聴、爪甲形成不全、歯牙異常、口腔内白板症などを合併することがあります。病変部に有棘細胞癌や悪性黒色腫が生じることがあります。
ケラチン5&14の異常発現が報告されていますが、原因遺伝子は特定されていません。

7)Papillon-Lefevre症候群 (PPK with periodontitis)

本症は極めて稀な常染色体劣性遺伝性疾患で、1-3歳頃までに掌蹠の紅潮と過角化、歯周炎で発症し、男女差はありません。病変は次第に手背や足背に進行(transgredient型)し、さらに四肢にも拡大します。病変部と正常部の境界は鮮明です。また、歯周囲炎が進行すると、歯牙の脱落や歯周膿瘍を起こします。尚、皮膚病変と歯周炎の重症度は相関することはありません。
この他に、易感染性があり、皮膚感染や汗腺膿瘍を併発することがあります。また、膝、肘や指関節に乾癬様皮疹を認めることもあります。掌蹠は局所の多汗と悪臭を伴うことがあります。
本症に悪性黒色腫が生じることがあります。
原因はカテプシンC遺伝子 (11q14-q21)変異であり、カテプシンCは炎症/免疫担当細胞内にある各種セリンプロテアーゼの活性化に関与しています。現在、カテプシンCの欠損と過角化の機序との関連は不明です。
亜型であるHaim-Munk症候群はP-L症候群より症状が重く、高度の過角化、早期歯牙の脱落に加え、クモ指症、先端骨溶解症、爪甲鉤彎症を伴います。Haim-Munk症候群もカテプシンCの異常で生じます。
電子顕微鏡では、角化細胞内に脂質様液胞を認め、トノフィラメントの減少、不整なケラトヒアリン顆粒を認めます。

8)Nexos病 (Diffuse NEPPK with woolly hair and arrhythmogenic cardiomyopathy)

本症は稀な常染色体劣性遺伝で、掌蹠角化、ウール状の頭髪(woolly hair)、不整脈を伴う右室心筋症の3兆候を示す疾患です。
ウール状の頭髪は出生時から明らかで、手背や足背に進行しないびまん性の掌蹠角化症も生後間もなく生じます。不整脈や心不全などは思春期頃までには臨床的に明らかになります。20-40歳代に心臓死は30%認めます。
この他にも、黒色表皮腫、乾皮症、毛包角化症(頬骨)、多汗症を併発することもあります。
原因は細胞と細胞あるいは細胞と細胞外器質の接着複合体の重要な構成物質であり、且つ表皮細胞の接着に関与するデスモゾームの構成蛋白であるプラコグロブリン (plakoglobin) 遺伝子(17q21)の変異です。本遺伝子蛋白は、表皮細胞と心筋細胞で発現するので、皮膚と心臓症状を発現します。

C.随伴症状を伴わない限局性遺伝性掌蹠角化症
1)限局性掌蹠角化症(focal EPPK)

本症は常染色体優性遺伝性のことが多く、2歳までには症状が発現します。掌蹠の加圧部位に限局性に過角化が認められ、特に足底部の病変は疼痛を伴うことが多いです。
本症はKRT6A, KRT6B, KRT16あるいはKRT17遺伝子変異で起こる先天性厚硬爪甲症の部分症状として現れることがある。遺伝子変異は現在のところ不明です。

2)線状掌蹠角化症(striate PPK)

本症は、掌蹠に線状の限局性角質肥厚が認められる、稀な常染色体優性遺伝疾患です。生後間もなく発症し、掌蹠にかかる圧力が少ない場合は症状が軽度ですが、掌蹠に摩擦がかかりやすかったり、微小外傷を受けやすいような肉体労働の機会が多いと症状が発現しやすく、亀裂も生じやすいです。
表皮細胞の接着に寄与するデスモゾームの構成蛋白であるデスモグレイン1遺伝子 (18q11-12) あるいはデスモプラキン遺伝子 (6p21) の変異により起こります。ケラチン1&16変異も関連していることがあります。

D.随伴症状を伴う限局性遺伝性掌蹠角化症
1)Howell-Evans症候群 (PPK associated with esophageal cancer)

本症は常染色体優性遺伝疾患で、5-10歳頃に掌蹠や四肢関節伸側の加圧部位に過角化が生じます。50歳代に食道の下2/3に癌を生じやすくなります。遅発性の掌蹠角化は食道癌の高リスクであるとの報告もあります。また、口腔粘膜の白斑症、毛孔性角化症もしばしば合併します。原因はtylosis esophageal cancer gene (TOC)遺伝子 (17q25)に局在します。

2)Richner-Hanhart 病 (Oculocutaneous tyrosinemia、tyrosinemia type II)

本症はチロシンアミノトランスフェラーゼ遺伝子異常 (16q22.1-q22.3) による稀な常染色体劣性遺伝疾患です。本酵素の変異により、血中&尿中チロシンとフェノールアミノ酸の代謝産物が高濃度になり、細胞内にチロシン結晶が沈着して皮膚、脳や眼などを障害します。
出生後1-2年以内に、羞明と角膜のびらんや潰瘍で発症し、次第に掌蹠の加圧部に有痛性の過角化と多汗症が認められるようになります。角膜病変が進行すると緑内障に至ることもあります。また、足底の病変は疼痛を伴い、歩行障害を呈することもあります。時に、肘・膝や舌に過角化を生じます。フェニルアラニンとチロシンの制限食を早期に開始しないと、精神遅滞を伴います。

3)先天性爪甲厚硬症 (Pachyonychia congenita)

本症は爪甲肥厚と外胚葉系に異常を呈する稀な常染色体優性遺伝疾患ですが、時に常染色体劣性遺伝を呈する症例があります。下記のように2型に分類されています。
本症の原因はケラチンKRT6、KRT16、KRT17の遺伝子変異です。これらの遺伝子は掌蹠の表皮や毛包や爪床で発現しており、機械的刺激などによる表皮の増殖亢進状態で発現が亢進します。
a)Jadassohn-Lewandowsky型 (types I)
本症は、爪甲遠位部が盛り上がる特徴的な爪甲の肥厚、荷重部に目立つ掌蹠角化症、粘膜の白板症、多汗症、時に水疱や四肢伸側の毛孔角化症を伴います。爪甲、掌蹠、粘膜に発現するKRT6a、KRT16遺伝子の変異が見られます。
尚、この型の臨床症状に加えて、2型に特徴的な脂腺嚢腫症を伴った例でもKRT6a遺伝子の変異がみつかっているため、臨床症状のみから正確に遺伝子変異型を推定できません。
KRT16の変異は爪の変化のない限局性の掌蹠角化症にも見つかっています。
b)Jackson-Lawler型 (types II)
本症は粘膜病変は伴わず、爪甲の過角化、多発性脂腺嚢腫症などの毛包脂腺系の嚢腫、毛髪や歯牙の異常を伴います。掌蹠の角化はあっても軽微です。爪甲、脂腺導管などにおいて発現するKRT17、KRT6bの遺伝子変異が見られる。同一のKRT17変異を持つ患者であっても、本症の典型を示す例や、多発性脂腺嚢腫症のみ示す例があります。

4)Carvajal-Huerta 症候群 (Striate PPK with woolly hair and left-sided dilated cardiomyopathy)

本症は、線状掌蹠角化症、ウール様頭髪、左心室の心筋症を呈する、稀な常染色体劣性遺伝疾患です。
生下時よりウール様頭髪を認め、幼少時から線状掌蹠角化症が発症し、思春期頃には左心室の心筋症となり、急激に心不全が進行することが多いです。また、皮膚の脆弱性があるため、四肢躯幹に水疱が一過性に出現することもあります。肘や膝の毛包角化症、ばち指を伴うことがあります。
本症の原因は、デスモプラキンのC末端欠損遺伝子変異 (6p24)ののホモ接合体に発症します。

E.随伴症状を伴わない遺伝性点状掌蹠角化症
1)Buschke-Fischer病 (Punctate keratosis of the palms and soles)

本症は稀な常染色体優性遺伝疾患で、1.17人/10万人の頻度です。幼少時には発症せず、小児期から中年期にかけて発症し、掌蹠に自覚症状の無い2-10mm大の多数の境界明瞭な過角化性丘疹を生じます。皮膚掻痒は伴いますが、多汗症は合併しません。痙性麻痺、強直性脊椎炎、顔面の脂腺肥大を伴うことがあります。消化器癌(大腸癌、膵臓癌など)や肺癌を伴うこともあります。
遺伝子異常は15q22.2、15q22.31に位置しますが、まだ確定していません。

2)手掌線に生ずる点状掌蹠角化症(Punctate keratosis of the palmar creases)
点状掌蹠角化症(punctate keratoderma)

本症は、15-40歳のアフリカ系アメリカ人の手掌線に点状掌蹠角化を認める、常染色体優性遺伝が示唆されている疾患です。
円錐形の角栓が詰まった小さく丸い陥凹が、手掌や手指の線に認められ、時に足底にも認められることがあります。摩擦などの機械的刺激で症状が亢進し、疼痛を伴うこともあります。原因となる遺伝子未だ同定されていません。

3)尖端角化類弾力線維症 (Acrokeratoelastoidosis)

本症は通常孤発性ですが、常染色体優性遺伝性のこともあります。20-30歳代に発症し、卵円形ないし多角形のクレータ状の角化性丘疹が、掌蹠辺縁部、手指足趾の辺縁、下腿前面、ナックル部位や爪囲に見られます。通常病変部に自覚症状はありません。真皮弾力線維の減少と断片化が特徴的で、無疹部にも認められます。原因となる遺伝子は未だ同定されていません。

4) (Focal acral hyperkeratosis)

本症は通常孤発性ですが、常染色体優性遺伝性のこともあります。尖端角化類弾力線維症とほぼ同様の症状が30歳代に発症しますが、学童時期には既に潜行し始めていると考えられています。多汗症を併発したり、病変の数や大きさが徐々に増大、妊娠中に急激に病状が進行することがあります。真皮弾力線維の減少と断片化が認められませんが、尖端角化類弾力線維症の亜型と考える研究者もいます。

F.随伴症状を伴う遺伝性点状掌蹠角化症

Schopf-Schulz-Passarge syndrome(眼瞼の嚢腫、点状掌蹠角化症、貧毛症、部分性無歯症)
強直性脊椎炎を伴う遺伝性点状掌蹠角化症
顔面の脂腺肥大を伴う遺伝性点状掌蹠角化症
痙性麻痺を伴う遺伝性点状掌蹠角化症
脂肪腫を伴う遺伝性点状掌蹠角化症

G.後天性掌蹠角化症 (Acquired PPK)
1)更年期角皮症

本症は女性の更年期に症状が出現しますが、女性ホルモンは正常のことが多いです。初期には足底加重部に紅斑と亀裂を伴う角質肥厚が出現し、歩行時に疼痛を伴うことが多くなりますが、掻痒はほとんどありません。その後、手掌の中心部に明瞭な角質肥厚が生じてきます。肥満で高血圧を伴うことが多いです。時に、病変が湿疹様あるいは乾癬様になることもあります。
治療は、通常治療に加えて、エストラディオール含む外用や内服を行います。

2)内蔵悪性腫瘍を伴う角皮症

本症は悪性疾患の随伴症状として発現するデルマドロームで、悪性腫瘍が発見される数か月前頃に先行することが多いです。食道、肺、胃、膵、大腸などの消化器癌、乳癌、腎癌、膀胱癌に合併しやすいです。Bazex症候群(四肢末端の過角化、鼻、耳介から始まる左右対称性の乾癬様紅斑、食道癌などの悪性腫瘍の合併)もその特徴的な皮疹から、悪性腫瘍を発見する契機になります。悪性腫瘍を摘除すると皮膚症状は消失しますが、腫瘍再燃で皮膚病変も再燃することが多いです。
Tripe palms(牛の胃様手掌)は、胃、肺の悪性疾患と合併することが多い皮膚病変です。手掌はびまん性に肥厚してビロード様生地にみえます。悪性腫瘍治療しても、約1/3以下で手掌の病変が残ります。また、この病変は水疱性類天疱瘡、乾癬、剥脱性皮膚炎を合併することもあります。

3)炎症あるいは反応性皮膚疾患による掌蹠角化症

慢性手湿疹(アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎など)、乾癬、Reiter症候群、毛孔性紅色粃糠疹、扁平苔癬、繰り返される外傷などでも、類似症状を生じることがあります。

4)水原性角皮症 (Aquagenic keratoderma)

本症は20歳代から出現し、数分間水に浸軟すると、半透明な白色調の丘疹や斑が手掌に出現し、同時に灼熱感や手の浮腫を伴うことが多いです。濡れた手を乾かすと、数分から数時間で症状は消失します。また、本症に多汗症を伴うこともあります。同様の症状が、頻度は少ないですが、足底に生じることもあります。
20%塩化アルミニウム、12%乳酸アンモニウムクリーム外用などが有用です。

5)感染による掌蹠角化症 (PPK caused by infections)

皮膚糸状菌により、足底や足底縁部が角質肥厚し、掻痒や 悪臭を伴うことがあります。
パピローマウィルスが掌蹠に過剰増殖して角皮症様になることがあります。
梅毒がびまん性、全身性の角皮症あるいは丘疹性の掌蹠角化症を呈することがあります。
癩は手足末端の感覚麻痺を生じ、感染、皮膚潰瘍、過角化を生じることがあります。
結核(特に粟粒性結核)でも、掌蹠に過角化を生じることがあります。
外皮で覆われた疥癬も、掌蹠に過角化と外皮に覆われた病変を呈することがあります。

6)薬剤による掌蹠角化症 (Drug-related PPK)

慢性ヒ素中毒で10-30年経過すると、掌蹠に多発性の疣状角化病変を生じます。薬剤過敏反応で掌蹠角化が生じることがあります(例えば、glucan, verapamil, quinacrine, etodolac, mepacrine, proguanil, mexiletine, methyldopa, lithium, venlafaxine, gold, tegafur, fluorouracil, bleomycin, hydroxyurea, practolol, and doxorubicin)。
インフルエンザワクチン接種での副作用で稀に掌蹠角化症を生じることがあります。

7)全身疾患による掌蹠角化症 (Systemic disease-associated PPK)

粘液水腫では、足底にびまん性過角化性局面と手掌の一部に過角化を併発することがあります。原因不明ですが、チロキシン欠損によるカロテンからビタミンA。に変換する過程での阻害が想定されています。実際、甲状腺ホルモン補充で症状が軽快することが多いです。
糖尿病でも、母趾底側や足底全荷重部に明瞭な過角化を呈することがあります。
慢性リンパ浮腫、肢端チアノーゼ、網状皮斑などの循環障害でも角皮症を生じることがあります。
皮膚T細胞リンパ腫(菌状息肉症、セザリー症候群)でも、掌蹠にびまん性過角化と爪変形を生じることがあります。
蛋白質欠乏とビタミン欠乏のダイエットをすると、亀裂を伴う掌蹠角化症が生じることがあります。

備考

掌蹠角化症を伴う症候群一覧

  1. Basal cell nevus syndrome
  2. Bullous congential ichthyosiform erythroderma
  3. Cantu syndrome - Hyperkeratosis-hyperpigmentation syndrome
  4. Cerebral dysgenesis, neuropathy, ichthyosis, and keratoderma (CEDNIK) syndrome
  5. Cole disease - Guttate hypopigmentation and punctate PPK
  6. Congenital nonbullous ichthyosiform erythroderma
  7. Darier disease
  8. Ectodermal dysplasia with skin fragility
  9. Epidermodysplasia verruciformis
  10. Epidermolysis bullosa herpetiformis (Dowling-Meara type)
  11. Erythrokeratoderma variabilis
  12. Familial pityriasis rubra pilaris
  13. Hystrixlike ichthyosis-deafness (HID) syndrome
  14. Ichthyosis hystrix of Curth-Macklin
  15. Ichthyosis vulgaris
  16. Incontinentia pigmenti
  17. Keratitis, ichthyosis, and deafness (KID) syndrome
  18. Lamellar ichthyosis
  19. Progressive symmetric erythrokeratoderma
  20. Schopf-Schulz-Passarge syndrome - PPK with hidrocystomas, hypodontia and hypotrichosis
  21. Sjogren-Larsson syndrome

治療

いずれの掌蹠角化症の治療は難しく、効果は永続的ではなく、副作用に悩まされることも多いことを認識することが肝要です。 一般には、角質融解剤(サリチル酸軟膏、乳酸あるいは尿素配合軟膏)あるいは活性型ビタミンD3で、密封療法などの外用を行います。 皮膚剥脱器や機械的に角質を削ることも有用で、限局した部位であれば炭酸ガスレーザーの使用も考慮します。加圧部位に病変が目立つ場合は、機械的刺激を減らす工夫も必要になります。
殆どの病型でレチノイド内服(第2世代ではAcitretin)が程度の差はあるものの効果があることが多いです。表皮剥離型の掌蹠角化症では、投与により糜爛が拡大することがあるので、注意が必要です。また、女性や小児に投与する場合は催奇形性の可能性を常に考慮しなければなりません。尚、非遺伝性掌蹠角化症では、経口活性型ビタミンD3 (calcitriol)が有効なことがあります。
炎症が目立つ部位ではステロイド外用し、乾癬様病変を伴う場合はPUVA療法も考慮します。手指の著明な絞扼輪や掌蹠の著しい角質肥厚に対して植皮術を行うこともあります。
Richner-Hanhart症候群では、早期の食事療法が有効です。
悪性腫瘍、心疾患、聴力障害、易感染性などの重篤な合併症がある症例では、その治療や対策を並行して行います。
糸状菌による二次感染を併発することもあるので、抗真菌剤外用あるいは内服が必要になることがあります。

執筆:2013.6