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脂肪肉腫

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

脂肪肉腫 (liposarcoma)

本症は、脂肪腫の悪性の対極に相当する脂肪細胞への分化を示す間葉系悪性腫瘍です。臨床症状は無痛性で自覚症状のない腫瘤であり、軟部組織深部に生じることが多いため、大きくなるまで気づかないことも多いです。本症は全軟部肉腫の10-16%を占めるとされます。

新WHO分類では、本症を下記の5型に分類しており、その組織型と生物学的悪性度は相関しています。

1)異型脂肪腫様腫瘍/高分化型脂肪肉腫 (atypical lipomatous tumor / well differentiated liposarcoma)

本型は脂肪肉腫の40-45%と最も多くを占めますが、悪性度は低いです。小児では稀で50歳代に多く、男女差はありません。好発部位は四肢(特に大腿深部)次いで後腹膜で、稀に皮下にも発生します。本型の約10%に脱分化が生じるとされます。

病理所見:以下の4亜型に分類されます。

a)脂肪腫様脂肪肉腫 (lipoma-like liposarcoma) :最も多い亜型で、成熟脂肪細胞が主体となり、脂肪腫に似た組織像を呈します。脂肪腫に比較して、大小様々な脂肪細胞から成ることが特徴で、核の染色性や異型性の強い脂肪芽細胞が、中隔結合組織に認められることが多いです。
b)硬化型脂肪肉腫 (sclerosing liposarcoma):次に多い亜型で、主に後腹膜や鼠径部に多いとされます。著明な核異型を呈する奇異な脂肪芽細胞が、豊富な膠原線維性間質に散在します。
c)炎症型脂肪肉腫 (inflammatory liposarcoma):稀な亜型で、後腹膜に多いです。成熟脂肪細胞と異型脂肪芽細胞の間に著明なリンパ球あるいは形質細胞主体とする慢性細胞浸潤を認めます。
d)紡錘細胞型脂肪肉腫 (spindle cell liposarcoma):脂肪芽細胞を含む異型脂肪腫様細胞成分と、線維性あるいは粘液性間質を背景に紡錘細胞が増殖します。

2)脱分化型脂肪肉腫 (dedifferentiated liposarcoma)

本型は、異型脂肪腫様腫瘍/高分化型脂肪肉腫から非脂肪肉腫へ移行した高悪性度腫瘍です。本型の10%は高分化型脂肪肉腫の再発例に脱分化を生じたものとされます。好発年齢や性差は、異型脂肪腫様腫瘍/高分化型脂肪肉腫と同様です。
病理所見:原発巣と再発ないし転移巣との組織像が異なるもので、高分化型脂肪肉腫から脱分化した非脂肪肉腫への移行が認められます。脱分化した組織は悪性線維性組織球腫(MFH)や線維肉腫に類似した像を認めます。時には、筋原性あるいは骨肉腫様の変化を伴うこともあります。

3)粘液型脂肪肉腫 (myxoid liposarcoma)

本型は、主に下肢に発生することが多く、全脂肪肉腫の約30%を占めます。また、比較的若い30-40歳代に好発し、局所再発する事が多く、1/3が転移を生じます。時に、多巣性に発症することがあります。
病理所見:円形から卵形の核を持った非脂肪性の間葉系細胞と印環状の脂肪芽細胞が、樹枝状に配列する毛細血管に富んだ粘液性基質を背景として見られます。しばしば、細胞外のムチンが癒合して肺水腫様の像を呈します。

4)多形型脂肪肉腫 (pleomorphic liposarcoma)

本型は、脂肪芽細胞の多形性を有する高悪性度の稀な腫瘍で、四肢深部に生じることが多く、全脂肪肉腫の約5%を占めます。50歳以上に好発し、性差はありません。
病理所見:MFHに類似した多形性の紡錘細胞や多核巨細胞の混在する小円形細胞から成り、それらの中に多形性の異型脂肪芽細胞が存在します。MFHに認められる炎症細胞浸潤は通常認められませんが、鑑別が難しいこともあります。

5)混合型脂肪肉腫 (mixed-type liposarcoma)

本型は、粘液型と高分化型/脱分化型、ないしは粘液型と多形型といった、異なる種類の脂肪肉腫の組織が共存する稀な腫瘍です。高齢者の後腹膜や腹腔内に好発します。
病理所見:複数の脂肪肉腫が混在して観察されますが、極めて稀です。

診断

高分化型脂肪肉腫では、脂肪腫と類似したMRI&CTの画像所見が得られるが、脂肪腫に比べて内部構造が不均一であることが一般的です。また、しばしばガドリニウムによる造影効果も認めます。
病理所見で確定できることが多いですが、以下の方法で診断することもあります。
高分化型脂肪肉腫では、12q14-15の増幅を認め、この部位に存在するMDM2やCDK4の検出を行うことで診断が可能です。
粘液型脂肪肉腫では、染色体転座t(12;16)(q13;p11) を約90%以上の症例で認め、この転座によりTLS/FUS-CHOPキメラ遺伝子が形成され、診断上有用です。

治療

本症の治療の原則は、広範な外科切除ですが、部位に予っては広範切除が出来ず、予後が悪くなります。
粘液型脂肪肉腫では、放射線感受性が高いため、術後に放射線照射を行うこともあります。
転移症例や高悪性度症例の場合は、化学療法も試みられているが、確立したものはありません。近年、脂肪細胞の分化に中心的な役割を演じているPPARγが、脂肪肉腫細胞に発現していることがわかり、PPARγアゴニストによる治療が期待されています。

予後

高分化型脂肪肉腫は脱分化を起こさない限りは遠隔転移を生じることはありません。不完全切除して再発を繰り返すと腫瘍死に至ることもあります。
脱分化型脂肪肉腫は約40%が再発し、約17%が遠隔転移し、5年生存率は30%とされます。

執筆:2012.3