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クリーピング病

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

ヒト以外の動物を固有宿主とする寄生虫が、経口的あるいは経皮的にヒトに侵入した場合、成虫になれずに、幼虫のままヒト体内を移行して様々な症状を呈することがあります(幼虫移行症)。この中には肝臓・肺・脳・脊髄・筋肉・消化管・眼などの深部の臓器を移動する内臓幼虫移行症と、皮下あるいは皮膚内を移動する皮膚幼虫移行症があります。後者をクリーピング病(皮膚爬行症)と呼び、線状の皮膚炎や移動性限局性の皮膚腫脹を生じます。日本では魚を生食する習慣があるので、経口摂取が原因になることが多く、原因寄生虫は、顎口虫、旋尾線虫、マンソン裂頭条虫、鉤虫などが多いです。

1.顎口虫症
国内で見られる顎口虫には、有棘顎口虫、剛棘顎口虫、日本顎口虫、ドロレス顎口虫がいます。有棘顎口虫(本来は犬やネコの胃壁に寄生)はライギョ、ドジョウなどの生食で感染します。剛棘顎口虫(本来は豚が終宿主)はドジョウや豚肉の生食で感染します。日本顎口虫(本来はイヌ、ネコ、ブタ、イタチの胃壁や食道壁に寄生)はドジョウ、ナマズ、コイ、フナなどの淡水魚、ヤマメなどの渓流魚、ブラックバス、シラウオ、ヤマカガシなどの生食で感染します。ドロレス顎口虫(本来はブタ、イノシシが終宿主)はマムシ、サンショウウオ、ブルーギルなどの生食で感染します。 皮膚症状は生食後数週から数ヶ月で出現し、発赤を伴う線状爬行疹が蛇行・拡大し、掻痒や軽度の疼痛を伴うことが多いです。有棘顎口虫では比較的皮下の深部を移行するため、移動性限局性の皮膚腫脹を呈することが多く、数年間出没します。また、皮膚以外の臓器へ迷入することもあります。剛棘顎口虫、日本顎口虫、ドロレス顎口虫では、線状爬行疹を呈することが多く、数ヶ月間出没を繰り返します。
2.旋尾線虫症
原因は旋尾線虫X型幼虫で、主にホタルイカ(寄生率は2-7%)の生食から感染します。この他にも、スルメイカ、ハタハタ、スケソウダラ、アンコウなどの内臓からも検出されます。最近になり、旋尾線虫の終宿主はツチクジラであることが明らかにされています。症状は感染源の摂取から数時間から数日以内に腹部症状(腹部膨満感、腹痛と嘔吐)が出現し、2-10日間症状が続きます。一方、皮膚症状は摂取から2週間前後に発症して、掻痒や発赤を伴った水疱を形成することも多いです。幼虫は-30℃以下の低温で4日間凍結するか、加熱処理をすると死滅します。
3.マンソン裂頭条虫症
マンソン裂頭条虫は終宿主であるネコ、イヌ、タヌキ、キツネなどの腸管に寄生している条虫です。第一中間宿主であるケンミジンコを含む水を飲んだり、第二中間宿主であるカエル、ヘビなどを生食することで感染します。生活環は終宿主の糞便とともに虫卵は外界に排出され、水中で孵化してコラシジウムに発育します。コラシジウムは第一中間宿主に捕食され、その体腔でプロセルコイド(前擬尾虫)へと発育します。プロセルコイドは第一中間宿主とともに第二中間宿主に捕食され、その体内でプレロセルコイド(擬尾虫)へと発育して皮下や筋肉に移行します。プレロセルコイドは第二中間宿主とともに終宿主に捕食され、その小腸で成虫へと発育します。 マンソン裂頭条虫の皮膚病変は、緩徐に移動性する皮下腫瘤として見つかることが多いですが、時に線状爬行疹を呈します。
4.鉤虫症
動物由来鈎虫の第3期幼虫がヒトの皮膚に侵入して、爬行疹を作ります。熱帯・亜熱帯地域に広く分布し、東南アジア、カリブ海、中南米、米国南部などでの感染が多いです。日本国内での感染報告はなく、当該地域への旅行で感染し、帰国後平均16日前後で発症しています。原因となる鉤虫の多くは、ブラジル鉤虫とイヌ鉤虫です。 終宿主のイヌやネコの糞便から卵が排出され、土の中でふ化して感染可能な第3期幼虫に成長し、砂浜や砂場を裸足で歩いたり座ったりするヒトにも感染します。好適宿主ではないヒトでは、幼虫は皮膚を移動して爬行疹を生じますが、2-8週間で死滅することが多いです。好部位は足や臀部であるが、砂場での接触状況では躯幹にも発症します。
5.糞線虫
糞線虫は熱帯・亜熱帯の土壌に広く分布し、国内では沖縄に感染者が多いです。糞線虫はヒトを固有宿主とするので、上記のような皮膚幼虫移行症とは言えませんが、幼虫の移動で皮膚爬行疹を呈します。皮膚内での幼虫の移動速度は非常に速く、5-10cm/時間です。好発部位は足背、肛門、臀部、大腿部や腹部に発症します。爬行疹以外にも慢性蕁麻疹を起こすこともあります。 感染経路はヒトの小腸に寄生して産卵し、便と共に体外に排出されてフィラリア型幼虫になり、ヒト皮膚へ侵入します。血管リンパ管を介して肺に到達して気管支、咽頭、食道を経て小腸に至ります。皮疹以外にも、消化器症状(腹痛、下痢、便秘、悪心、嘔吐など)や呼吸器症状を伴います。

治療

虫体の外科的摘出が行われますが、近年ではアルベンダゾール、イベルメクチンなどを内服治療もされます。
予防方法は淡水魚、爬虫類、豚肉の生食を避ける事、調理器具の洗浄を行う事です。日本人は刺身を好む事から、元々は生食をしていなかった地域でも刺身にして出す事が度々あり、これが感染の原因になる例も知られています。また、鉤虫や糞線虫などの汚染地域では、裸足で歩かないことや土壌と皮膚との直接触を避けることが重要です。

執筆:2010.10