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皮膚アスペルギルス症

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

皮膚アスペルギルス症 (cutaneous aspergillosis)

病因

本症の病原体であるアスペルギルス(Aspergillus )属はカビの一種で、空気中や土壌など自然界に広く存在し、200種類程度あります。人間のアスペルギルス症の原因として、主なものとしては、Aspergillus fumigatus とAspergillus flavus 、少ないものとしては、Aspergillus terreus 、Aspergillus nidulans 、Aspergillus nigar 、稀なものとしては、Aspergillus ustus などがあります。人間のアスペルギルス症の原因としては、Aspergillus fumigatus が90%を占めて多いです。Aspergillus fumigatus は、肺の浸潤性アスペルギルス症の病原体としてよく見られます。Aspergillus flavus は、肺以外の浸潤性アスペルギルス症の病原体としてよく見られます。
通常健常人に感染を生じることはなく、多くは日和見感染として生じます。主に、免疫低下状態(骨髄移植や臓器移植患者、ステロイド大量内服者、癌の化学療法中の患者、好中球機能異常患者、HIV患者など)にある人がアスペルギルスの分生子(conidia)を多量に吸い込んで肺に病巣を形成することが多いです。この肺アスペルギルス症では、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA : allergic bronchopulmonary aspergillosis)と浸潤性アスペルギルス症(IA : invasive aspergillosis)とがあります。前者は咳や喘鳴などのアレルギー性の呼吸器症状が見られ、後者においては肺症状(発熱、喀痰、喀血、肺炎症状など)は勿論のこと、肺以外の組織(副鼻腔、中枢神経系、皮膚、骨、肝臓、腎臓など)にも浸潤して、発病から1-2週間で死に至ることがあります。
一方、アスペルギルスが最初から皮膚病変をきたすことはほとんどなく、肺病変から血行性に菌が撒布され皮膚に到達したもの(続発性皮膚アスペルギルス症)、あるいは不潔や長期臥床、ギプス固定や手術創部、ステロイド外用薬などの局所要因を契機に、皮膚に直接寄生するもの(原発性皮膚アスペルギルス症)があります。原因菌としては、Aspergillus fumigatus やA. flavus などが存在します。

皮膚症状

長期間不潔で湿潤した部位に好発します。毛包や微小外傷から侵入して、毛包炎、膿皮症、ざ瘡様丘疹、癰に類似した病変を形成します。

診断

生検組織における菌糸の存在や各種培養によるアスペルギルスの証明で診断されることが多い。しかし、血液培養での陽性率は低く、血液培養陰性であっても全身性アスペルギルス症を否定できません。近年では、血液・喀痰や各種組織を用いたAspergillus-PCR で確定診断できます。
深部真菌感染症の指標であるβ-D-グルカンの上昇も診断の一助となりますが、アスペルギルス感染症に特異的でないことを認識すべきです。

治療

喀痰や気管支洗浄液などの培養が陽性の場合、単なるコンタミネーションの可能性もありますが、浸潤性アスペルギルス症が致死的であることを考慮すると、予防的治療を開始すべきです。確定診断にとらわれすぎて治療開始が遅れないようにすることが肝要です。 治療はliposomal Amphotericin B (Ambisome)もしくはBoliconazole (V-fend)が第一選択で使用されます。これらの薬剤以外にアスペルギルスに感受性のある抗真菌剤としてItraconazole (Itrizole)の内服も推奨されています。
尚、上記抗真菌薬は一般にサイクロスポリンやタクロリムスの血中濃度を上昇させるので、上記薬物治療を実施する前に、免疫抑制剤を減量することは言うまでもありません。
肺病変の治療効果の判定は、連日の培養結果や週2回程度のAspergillus-PCR結果、ならびに胸部&副鼻腔CT を週1回撮影して画像による病勢把握も重要です。薬剤の減量・中止によって再燃することもしばしば経験されるため、定期的なチェックが必要になります。 限局性の病巣に対しては、上述の薬物治療のほかに外科的切除も考慮します。発症当初のみならず薬物治療中に病巣が限局化した場合にも、全身状態を考慮しつつ外科的に病巣を切除することも推奨されます。

感染防止対策

アスペルギルス感染に対する予防策は標準予防策で十分です。特に移植関連病棟では、空調施設にアスペルギルスが存在すること、病院工事中はその頻度が増すこと、観賞用の鉢植えの土,生花やドライフラワーの表面,花瓶の水からアスペルギルスが培養されることの認識が必要です。具体的には、免疫低下患者はアスペルギルスを吸い込まないN-95マスクを装用し、空調はHEPAフィルターを用いて空気清浄を行い、工事中の手術を控えたり、生花などを病室に持ち込まない配慮などが必要となります。

執筆:2011.9