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グルコサミン(glucosamine) とコンドロイチン(chondroitin)

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動物の結合組織を中心にあらゆる組織に普遍的に存在するグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)は、長鎖の通常枝分れがみられないムコ多糖で、硫酸基が付加した2糖の繰り返し構造からできています。その一方はアミノ糖(ガラクトサミン、グルコサミン)であり、他方はウロン酸(グルクロン酸、イズロン酸)またはガラクトースです。多くのグリコサミノグリカンは、プロテオグリカンとしてコア蛋白質と呼ばれる核となる蛋白質に付加した形で存在しています。また、多数の硫酸基とカルボキシル基を持つために、強く負に帯電しています。
ヒアルロン酸は、プロテオグリカンとしては存在しませんが、軟骨に大量に存在するプロテオグリカン複合体(アグリカン、ヒアルロン酸、リンク蛋白質の3成分を中心とする複合体)の中心を占める巨大なグリコサミノグリカンです。ヒアルロン酸は、保湿物質として、あるいは軟骨のようなクッション作用を持つ組織の成分として重要です。

グルコサミン(化学式:C6H13NO5)は、グルコースの一部の水酸基がアミノ基(-NH2)に置換された代表的なアミノ糖です。動物においては、アミノ基がアセチル化されたN-アセチルグルコサミンの形で、糖蛋白質、糖脂質、グルコサミノグリカンの主要構成成分となっています。特に動物の皮膚や軟骨、甲骨類の殻に含まれています。工業的にはカニやエビなどの甲殻から得られるキチンを塩酸や硫酸で加水分解してグルコサミンを抽出します。
俗にグルコサミンは「関節の動きをなめらかにする」、「関節の痛みを改善する」などといわれますが、グルコサミン単独内服、あるいはコンドロイチン(コンドロイチン硫酸)併用内服をしても、骨関節炎(膝、腰部、股関節など)の疼痛を緩和する効果がないことが医学的に示唆されています。
安全性については、硫酸グルコサミンは適切に摂取すればおそらく安全と思われており、塩酸グルコサミンは短期間、適切に摂取する場合は安全であることが示唆されています。若い人が長期にわたって摂取すると、自然な軟骨再生力が低下する可能性があります。グルコサミン摂取による血糖値、血圧、血中コレステロール値の上昇などが懸念されるので、糖尿病、高脂血症(脂質異常症)、高血圧のリスクのある人は注意する必要があります。妊娠中・授乳中の安全性についてはデータが十分でないことから使用を避けるべきです。

コンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate)はグリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一種で、D-グルクロン酸 (GlcA) とN-アセチル-D-ガラクトサミン (GalNAc) の2糖が反復する糖鎖に、硫酸基が結合した構造を持ちます。この「GlcA-GalNAc」2糖単位の中で硫酸基の付加やエピ化(GlcA からイズロン酸)が生じるため、化学構造の著しい多様性が可能となり、その性質や機能にも変化が生じます。多くのグリコサミノグリカンと同様に、アグリカンと呼ばれるプロテオグリカンとして軟骨の細胞外マトリックスに多く存在し、ヒアルロン酸、リンク蛋白質とともに上述の超高分子複合体を形成しています。この複合体は、軟骨特有なII型コラーゲンと共に軟骨の細胞外マトリックスを形成し、軟骨の持つクッション作用に重要な役割を果たしています。
皮膚に多く存在するデコリン(デルマタン硫酸を豊富に含むプロテオグリカン)は、コラーゲン線維に結合して細胞外マトリックス形成の調節を行います。その他の組織のコンドロイチン硫酸もプロテオグリカンとして、多くは細胞外マトリックスの形成に関与し、細胞接着・移動・分化・増殖など細胞形質の制御を行っていると考えられています。脳においては、神経線維の再生を阻害する因子の一つとして知られるほか、神経細胞の回りを取り巻く構造であるperineuronal netの主要成分として脳機能の可塑性に関与するとされます。コンドロイチン硫酸はアルカリまたは酵素での蛋白質除去により、白色粉末またはカルシウム塩の結晶として得られ、分子量約2-5万で、水溶液はかなり粘稠です。 俗に、コンドロイチン硫酸は「骨の形成を助ける」、「動脈硬化や高血圧を予防する」などといわれて健康食品として内服摂取されますが、ヒトでの骨関節炎(膝、腰部、股関節など)の緩和に対する2005年以降に報告された医学研究結果では、有効性が無いと示唆されています。 安全性については、適切に用いれば経口摂取もしくは外用で点眼薬として用いる場合はおそらく安全と思われます。妊娠中・授乳中の安全性については充分なデータがないので、使用を避けるべきです。

上記のように、グルコサミン、コンドロイチンには骨関節炎に対して疼痛緩和の効果が無いと医学的に示唆されているにもかかわらず、グルコサミンおよびコンドロイチンのサプリメント(健康補助食品)がメディアやインターネットを通して誇大広告されています。
この背景には、背反する結果が現在も医学論文として報告されていることもあり、結論がまだ確定していないからだと思われます。
最新のBritish Medical Journalオンライン版(Wandel S, Jüni P, Tendal B et al.: Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis. BMJ. 2010 Sep 16;341:c4675. doi: 10.1136/bmj.c4675.)では、股関節や膝の変形性関節症(骨関節炎:OA)の疼痛を緩和する目的でこのようなサプリメントを用いても、治療効果があるとのエビデンス(科学的証拠)は認められないことが、大規模研究の新たな分析によって示されています。
この他にも、下記に示す論文にも同様の報告がなされており、いずれもグルコサミンやコンドロイチンサプリメントに意義のある効果はないことが示唆されています。
1) Sawitzke AD, Shi H, Finco MF, Dunlop DD et al.: Clinical efficacy and safety of glucosamine, chondroitin sulphate, their combination, celecoxib or placebo taken to treat osteoarthritis of the knee: 2-year results from GAIT. Ann Rheum Dis. 2010 Aug;69(8):1459-64.
2) Reichenbach S, Sterchi R, Scherer M et al.: Meta-analysis: chondroitin for osteoarthritis of the knee or hip. Ann Intern Med. 2007 Apr 17;146(8):580-90.
3) Vlad SC, LaValley MP, McAlindon TE, Felson DT.: Glucosamine for pain in osteoarthritis: why do trial results differ? Arthritis Rheum. 2007 Jul;56(7):2267-77.
4) Clegg DO, Reda DJ, Harris CL et al.: Glucosamine, chondroitin sulfate, and the two in combination for painful knee osteoarthritis. N Engl J Med. 2006 Feb 23;354(8):795-808.
5) Distler J, Anguelouch A. Evidence-based practice: review of clinical evidence on the efficacy of glucosamine and chondroitin in the treatment of osteoarthritis. J Am Acad Nurse Pract. 2006 Oct;18(10):487-93.

しかし、一方でこの結論とは異を唱える論文も存在します。
1) Lee YH, Woo JH, Choi SJ et al.: Effect of glucosamine or chondroitin sulfate on the osteoarthritis progression: a meta-analysis. Rheumatol Int. 2010 Jan;30(3):357-63.
2) Hochberg MC. Structure-modifying effects of chondroitin sulfate in knee osteoarthritis: an updated meta-analysis of randomized placebo-controlled trials of 2-year duration. Osteoarthritis Cartilage. 2010 Jun;18 Suppl 1:S28-31.
3) Kahan A, Uebelhart D, De Vathaire F et al.: Long-term effects of chondroitins 4 and 6 sulfate on knee osteoarthritis: the study on osteoarthritis progression prevention, a two-year, randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Arthritis Rheum. 2009 Feb;60(2):524-33.
4) Black C, Clar C, Henderson R et al.: The clinical effectiveness of glucosamine and chondroitin supplements in slowing or arresting progression of osteoarthritis of the knee: a systematic review and economic evaluation. Health Technol Assess. 2009 Nov;13(52):1-148.
5) Bruyere O, Reginster JY. Glucosamine and chondroitin sulfate as therapeutic agents for knee and hip osteoarthritis. Drugs Aging. 2007;24(7):573-80.

このような結果の差が出る理由として、臨床試験のデザインと解析方法、対象患者(数、合併症、併用薬剤など)、骨関節炎疾患の重症度、効果の評価方法、グルコサミンやコンドロイチンの種類や品質や濃度、投与量と期間、製品提供会社からのバイアスなどの因子があるのかもしれません。
個人的には、グルコサミンやコンドロイチンの内服による有効性は期待できないと思っていますが、更なる厳格な大規模臨床試験で決着がつくのではないかと期待しています。唯一結果が覆るとすれば、骨関節炎疾患がエピジェネティック変異で生じていることが確認され、グルコサミンやコンドロイチンがそれを緩和する作用があれば、多少の有効性の可能性があるかもしれません。
現時点では、患者さんからこれらのサプルメント内服について聞かれたら、内服による副作用はほとんど無いと考えられるので、患者さん本人が効果を実感できる場合は積極的に使用を中止する必要は無いとお答えします。しかし、その効果は疾患の自然経過やプラセボ効果によるものである可能性が高いと心の奥では思っています。